照明のことが分かる講座
3-12 建築化照明とライン形LEDモジュール器具
建築化照明とは建築の躯体に照明器具を内蔵して空間の明るさを得る手法です。様々な手法がありますがダウンライト照明が最も代表的な手法です。しかし今日では天井や壁面を広く照らして、間接的な照明効果を得るコーブ照明やコーニス照明にも注目が集まっています。これらの照明を広く展開すれば建築の輪郭が光で強調されるため個性的な雰囲気が表現されます。
コーブ照明やコーニス照明は今始まった訳ではなく、その歴史は長いです。特に直管型蛍光灯の普及がブームの火付け役になったようで、さらに建築の構造でRCやSRC造が増えてくると柱間が広くなり、そこで得られた広い天井や壁面を明るくすることで空間の奥行や広がりが表現されやすくなったからです。
コーブ照明は折り上げ天井にライン上の光源を内蔵して天井面を明るく照らす照明です。(写真1) もともと屋内空間の天井を空のようなイメージにしたいと言う発想から生まれたらしく、したがって無窓または窓の存在が目立たない部屋に奨められてきました。それとは別に天井が装飾的にデザインされている部屋でも興味深い照明効果が期待されます。

写真1 コーブ照明例
コーブ照明は室内の規模と反射率によって床面や作業面の照度アップにも貢献します。それは天高に対して間口や奥行きのある空間で、なおかつ部屋の反射率が高い場合に効力を発揮します。条件が良いと、特にLED 照明器具から出る光のうち40%以上の光が床面に達します。(図1)

図1 コーブ照明の初期照度分布図{1,17mのライン形LEDモジュール器具(光の広がり55°、1450lm)2灯、天井・壁が80%、床が40%の反射率}
そのせいか最近では住宅でも間取りの広い部屋で積極的にコーブ照明を取り入れる傾向があります。コーブ照明は間接照明なので落ち着きと高級感が得られやすいと言われていますが、この照明だけでは平坦で退屈するような明るさになりがちです。そのため他にハイライトや煌めきのあるアクセント照明を加えることで空間は見違えるようになります。
一方、コーニス照明は天井と壁面に接する部分の一部を折り上げ、そこに光源を内蔵して壁面全体を明るくする照明です。(写真2) 明るい仕上げの壁面や質感のある壁面、絵画及びタペストリー・カーテンなどで装飾された壁面にも効果が得られます。

写真2 コーニス照明例
比較的天井の高い空間は人の視線が鉛直面である壁面を広く見ています。そのため明るい仕上げ壁面であれば、そこをさらに明るく照明することで照度以上の明るさ感が期待されます。
今までコーブおよびコーニス照明には直管形蛍光ランプ器具(ランプ露出型のトラフ器具)が欠かせませんでした。しかし最近はライン形LEDモジュール器具に変わりつつあります。その理由は器具が蛍光灯よりも体積的にコンパクトであることです。(写真3,4)

写真3 蛍光灯トラフ器具(左端とトップ)とおもなライン形LEDモジュールの大きさ比較

写真4 蛍光灯トラフ器具(左端とトップ)とおもなライン形LEDモジュールの大きさ比較
ライン形LEDモジュールはエネルギー消費効率も高く、メーカや品番によって幅がありますが、高いものではおよそ120lm/Wと蛍光灯を超える勢いです。さらに照明効率が高く、例えば蛍光灯のトラフ器具は光が360°拡散するため天井や壁面を照らすだけではなく躯体内にも多くの光が当たってしまいますが、ライン形LEDモジュール器具は光に方向性を持っているため(光の広がりも選べる)、照らしたい面をより効率よく照明することができます。
ライン形LEDモジュール器具は扱っているメーカも多く種類も豊富です。おもに100V用と24V用があり、さらに電源ユニット内蔵と別置き型があります。
また取り付け方法は取り付け金具に固定するものと直にビス止めできるもの、マグネットで留めるものなどがあり、現場の状況によって適切な方法を選ぶことができます。なかには照射角度が変えられ、より効率よく天井面や壁面を照明できる構造になっているのもあります。
器具の取付け位置や天井や壁からの寸法、器具を隠す部分の構造が予め決められているときはその条件の中で上手く納めなければなりません。ライン形LEDモジュール器具は小型のためかなりスペース的にきついところでも取り付けが可能ですが、放熱のことを考慮すると取り付け面以外は造営材などから少し離して取り付けます。
天井や壁面に不要な影が生じないよう配灯することも大事です。例えば写真1のように4隅に配灯する場合、角のところまで目いっぱいにライン形LEDモジュール器具を連結させると、光の重なりで角が明るくなりすぎる恐れがあります。そのために少し開けて配灯することで天井面はムラなく照明することが可能になるのです。
『照明のことが分かる講座』の目次
第1章 照明の基礎知識
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1-1光とは光には私たちの目に見える光と見えない光があります。太古の昔から人が見てきた光は太陽や星の光、そして火の光です。
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1-2照度のお話し照度とは光で照らされた場の明るさのことを言います。
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1-3光束と照度の関係一般照明用の白熱電球(普通電球とも呼ばれる)は40Wより60Wの方が明るいです。そのためW(ワット)数の高いほど「明るいランプ」と思われがちですが、例えば蛍光ランプの40Wは電球60WよりW数が低くとも数倍明るいです。 この例でもわかるようにW数は明るさを表す単位ではないのです。
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1-4照度の黄金比明るさ感は照度の高い低いだけではなく、照度対比によるところも大きいです。例えば写真1と写真2を見て下さい。
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1-5輝度とは街の明かりが届かない自然豊かな場所で、懐中電灯を夜空に向けて照らすと、まるでレーザービームのような一筋の光芒を見ることができます。
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1-6白色光源の色温度照明ではよく「白色光」と言う名称が使われます。太陽の光や青空光は白色光です。またキャンドルや白熱電球・蛍光ランプなどの人工光源も白色光を放ちます。
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1-7色温度を測定してみるとCIExy色度図(以下xy色度図)はCIE(国際照明委員会)によって承認された光色の表し方です。照明関係者だけでなく色彩の勉強をされている方にもおなじみの図表です。
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1-8演色性とはお店で見た肉や魚の赤身がおいしそうに見えたのに家で見たら少し違って見えた、という経験をされた方は少なくないと思います。
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1-9配光と配光分類一般照明用白熱電球(以下、普通電球)を点灯するとフィラメントを中心に四方八方へ360度にわたって光の放射していく様子がイメージできます。
第2章 光源の種類と特徴
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2-1白熱電球、その進化白熱電球は1878年アメリカのトーマス・エジソンによって発明された、と言われています。
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2-2豊かな種類を誇る白熱電球白熱電球を用途別に分類すると前回紹介したように一般照明用、投光照明用、装飾照明用に大別されます。
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2-3蛍光ランプ、その進化とプロセスいままで家庭やオフィス照明などで欠かせない 蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ)は1935年アメリカの大手電気メーカであるGE(ゼネラルエレクトロニクス社)のインマンによって発明されました。
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2-4蛍光ランプの種類蛍光ランプを形状別に分類すると、おもに直管形、環形(丸形)、小型変形があります。
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2-5HIDランプの種類と性能HIDランプは高輝度放電ランプのことで「High Intensity Discharge Lamp」の頭文字をとった略称です。
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2-6LEDランプ、その進化プロセス今、照明=LED(発光ダイオード)と言われるほど、LEDがあらゆる空間の照明に注目されています。
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2-7LEDに関する用語の解説LEDに関する専門用語は多々ありますが、特にLED照明を理解するために必要な用語を整理して次に紹介いたします。
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2-8LED電球の種類LED電球(電球形LEDとも言われる)は白熱電球の代替になるLED光源で、口金の形状がE形(エジソンベース),B,GX53形のいずれかを備えたものを言います。
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2-9LED電球の選び方今日、一般照明用LED電球は多くの白熱電球用器具(以下、白熱灯)に使われています。そのなかで最近注目されているのが密閉対応型です。
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2-10直管形蛍光ランプ代替のLEDランプ直管LEDランプ(LED蛍光灯、直管形LEDなどともいわれる)とは直管形蛍光ランプの代替用途になるものです。
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2-11特殊照明用LEDランプ一般照明用のLEDランプ以外に特殊な用途を持ったLEDランプがあります。ここではその幾つかを紹介いたします。
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2-12有機ELと無機ELLED照明が普及しつつあるなかで、いまELが注目されています。ELはLEDの技術では難しいとされる、薄くてぎらつきのない面発光を特徴とする光源です。
第3章 LED照明器具の選び方
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3-1照明器具とその種類照明器具とは様々な素材を用いて光源とその点灯に必要な部品を安全に固定し保護したもので、電気的部分と光学的部分、および機械的部分からなります。
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3-2照明器具に使われる素材照明器具には様々な素材が使われていますが、その中でガラス、プラスチック、金属が3大素材と言われます。
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3-3日本の住宅照明に欠かせないシーリングライト1970年代、蛍光灯の普及によって日本の住宅照明には欠かせなくなった照明器具に大型のシーリングライト(以下、シーリングライト)があります。
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3-4ダウンライト器具の種類ダウンライトは天井に穴をあけて、そこに埋め込まれる器具です。したがって器具そのものの存在をあまり感じさせないで空間の明るさを得ることができます。
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3-5ダウンライトの選び方ダウンライトにはおもに全般照明用と局部照明用、壁面照明用の3種類があります。
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3-6ペンダントライト器具とは消費税が導入される前、個別消費税の一種で物品税がありました。これは主に贅沢品に課せられる税で、照明器具では一基に5灯以上のランプをもつ天井吊り下げ器具のシャンデリアが対象になっていました。
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3-7スポットライト器具の種類と選び方スポットライトを浴びるという言葉があります。これは大勢の人の視線を集める、注目されるという意味になります。
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3-84つの配光別スタンド器具スタンド器具(以下、スタンド)とは床や卓上に置いて使う器具のことで、前者をフロアスタンド(フロアランプと言う)、後者が卓上スタンド(テーブルランプとかデスクランプとも言う)になります。いずれも配線工事が不要で、近くにコンセントがあればどこにでも設置が可能なため使い勝手の良い照明器具です。
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3-9ブラケットと呼ばれる壁付け器具壁に直付けされる器具を一般にブラケットと言います。別にウォールライトとかウォールスコンスなどと呼ばれることもあります。
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3-10屋外用器具の種類屋外照明は道路、街路、広場などを安全な明るさにする目的で普及してきました。しかし今日ではそれに加えて夜の景観や雰囲気を高める照明が注目されています。
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3-11景観照明(ライトアップ)用器具夜、歴史的な建造物や土木的価値のある橋梁などが暗闇から明るく浮かび上がる様はとてもドラマチックで新たな空間の魅力を引き出す照明として、近年クローズアップされています。このような照明は一般にライトアップと呼ばれ、夜の風景に彩りを添える効果として期待されています。
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3-12間接照明とライン形LEDモジュール器具建築化照明とは建築の躯体に照明器具を内蔵して空間の明るさを得る手法です。様々な手法がありますがダウンライト照明が最も代表的な手法です。
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3-13調光・調色の制御方法照明の明るさを変えることはものの見え方と空間の雰囲気を変えることにつながり、人々の行動心理に与える影響は大きいです。
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3-14エネルギー消費効率の高いLEDランプLED照明が省エネになり電気代の節約になることは、今では周知のことと思います。
第4章 照明方式
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4-1全般照明と局部照明全般照明と局部照明は照明方式の一部で、どちらの方式をとるかで空間の雰囲気は大きく変わります。
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4-2タスク・アンビエント照明とはタスク・アンビエント照明は全般照明や局部照明と同じ照明方式の一部です。
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4-3直接照明と間接照明直接照明は天井に設置されたダウンライトやスポットライト器具などによって作業面や見せたい対象(視対象)を直接照らすため、照明効率が高く省エネ照明に寄与します。しかし一方で影が生じやすく、照射角度や配光によって生じる陰翳は人の顔や立体物の見え方を変えて見せます。
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4-4建築化照明と主な手法建築化照明については様々な手法があります。以前に「間接照明とライン形LEDモジュール」の項で一部触れましたが、今回は前回に説明していないものを含め10の手法を以下に紹介します。
第5章 照明の視覚心理・生理
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5-1視覚のメカニズム目は光によってモノを見ることができます。モノが何故見えるのか?その原理を「目から光が出ていて、目を開けたときだけモノが見える」と説いた古代の哲学者がいました。
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5-2目に優しい照明目を刺すようなギラつく光はその強さによって暴力的にもなり、眼を痛めます。日中の太陽光を直視すると危険です。
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5-3照度と視力の関係私たち日本人は北欧や北米諸国の人に比べると明るさの好きな人種のようです。
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5-4輝度と知覚効果輝度の高い光源や照明器具、窓明かりなどを直接目にすると、つい目を細めたり、まぶしすぎると手で光源を隠したりするような仕草をします。
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5-5色温度と照度の心理効果心理は効果の度合によって体調に影響することから、人の状態や行動に関わるために建築やインテリアなどの設計業務で活用されています。
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5-6光に関する脳の働き最近、照明の脳に与える影響が注目されています。