化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第3章 化学製品の基本

3-3 洗剤の特徴と分類

洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。モノタロウでは業務用のうちドライクリーニング用洗剤の取扱があります。

家庭用身体用洗剤と業務用美容院・ホテル用洗剤は、化粧石けん、手洗石けん、洗顔料、シャンプー、ボディシャンプーです。これらは化粧品に属し、医薬品医療機器等法(2-3 参照)の規制対象になるので、通常は洗剤に含めません。ここでも説明は省略します。

洗剤の種類

家庭用 身体用※
衣料用 重質洗剤(ヘビーデューティ)
軽質洗剤(ライトデューティ)
台所用
住居用
業務用 美容院・ホテル用※
ドライクリーニング用
ランドリークリーニング用
厨房用
建物・施設用
工業用 機械金属用、エレクトロニクス用、車両船舶用

※化粧品に属する

洗剤の主成分は用途に応じて様々ですが、おおむね界面活性剤(1-7 参照)、有機溶剤(1-6 参照)、酸・アルカリ(1-3 参照)の3つに分けられます。主成分単独でなく複数の主成分を混合することも、しばしば行われます。

多くの洗剤は、主成分に次の表に示すような助剤を加えてつくられます。

洗剤の助剤

種類 役割 物質
水軟化剤 水中のCa、Mgイオンをイオン交換で取り込んで水の硬度を下げる ゼオライト、ポリアクル酸塩
キレート剤 水中のCa,Mgイオンをキレート作用で取り込んで水の硬度を下げる EDTA、クエン酸塩
pH調整剤
(アルカリ剤)
アルカリ性を保つ 炭酸塩、ケイ酸塩、アルカノールアミン、水酸化ナトリウム
分散剤
(再汚染防止剤)
泥などの固体微粒子を分散させ、再付着を防止する CMC、PVA、PEG、PVP
泡調整剤 過剰な泡立ちを調整する シリコーンオイル
溶剤 こびりついた油を膨潤、溶解させる グリコールエーテル
酵素 タンパク質、油汚れの分解、綿等のセルロースの表面を分解 プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ
蛍光増白剤 洗濯物の黄ばみを補色補正する スチルベン系化合物
漂白剤 汚れを酸化分解 過炭酸ナトリウム

以下では、各種の洗剤について、特徴と配合構成を説明します。

家庭用衣料用洗剤は、もっぱら界面活性剤を主成分としています。これにビルダーと言われる助剤(水軟化剤、キレート剤、pH調整剤、分散剤)、酵素、蛍光増白剤が加えられます。家庭用衣料用洗剤には重質洗剤と軽質洗剤があります。 重質洗剤は、木綿製やポリエステル製衣料で汚れの比較的ひどいものを洗濯機で力強く洗うのに適した洗剤です。主成分の界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)のような洗浄力の強いアニオン界面活性剤と ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)のような洗浄力の強いノニオン界面活性剤を使います。軽質洗剤は毛、絹のようなアルカリ性に弱い繊維の衣料に適し、高級アルコール硫酸エステル塩(AS)のような洗浄力のマイルドなアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を主成分とします。 業務用ドライクリーニング用洗剤は、塩素系溶剤(パークロロエチレン)や炭化水素系溶剤(ヘキサンなど)のような有機溶剤を主成分とし、これに汚れの再付着防止のため界面活性剤を加えます。業務用ランドリークリーニング用洗剤は家庭用重質洗剤に似ていますが、高温水を使うので漂白剤も加えることがあります。

家庭用台所洗剤、業務用厨房用洗剤も界面活性剤を主成分としています。起泡力の高いアニオン界面活性剤(LAS、AOS、AS、AESなど)、起泡調整力のあるノニオン界面活性剤(AE、脂肪酸アルカノールアミドなど)に加えて、手荒れの少ないアルキルアミンオキシドのような両性界面活性剤も使われます。 助剤としてはキレート剤、有機溶剤が使われます。自動食器洗い機用洗剤としては洗浄力は優れるが、泡立ちが少ないノニオン界面活性剤にpH調整剤、キレート剤が加えられます。

家庭用住居用洗剤には浴室用、トイレ用、レジン換気扇用、ガラス用、一般住宅用と色々な種類があります。浴室は皮脂汚れに加えて石けんかす(脂肪酸カルシウム塩など)汚れが付着します。 このためアニオン(LASなど)、ノニオン界面活性剤(AEなど)を主体にキレート剤、溶剤が加えられます。以前は酸性洗剤が使われましたが、最近は少なくなりました。トイレの便器内の汚れは尿石(尿からのリン酸カルシウム)と水垢(水中のケイ酸と陶器のガラス質との反応生成物)です。後者は落としにくい汚れです。 中性タイプの洗剤は界面活性剤を主体にキレート剤が加えられています。酸性タイプの洗剤は、塩酸や有機酸を主体にしています。いずれもリン酸カルシウムを分解して除去します。レジン換気扇汚れは油汚れで、しかも時間が経って酸化・重合しているために、こびりついています。 洗剤は洗浄力の強力なアニオン、ノニオン界面活性剤にpH調整剤としてアルカリ、さらに汚れを膨潤させるため溶剤を加えています。ガラス用洗剤も界面活性剤を主体にアンモニアやエタノールアミンのようなアルカリ剤が加えられています。一般住宅用洗剤は界面活性剤を主体にpH調整剤、分散剤、泡調整剤が配合されています。

業務用建物・施設用洗剤には汚れの種類、汚れたものに応じて様々な洗剤があります。油汚れの工場の床洗浄用洗剤では、界面活性剤を主体にアルカリ剤、溶剤を配合したものが多くあります。また研磨剤を加えた洗剤もあります。

工業用洗剤は洗浄分野によって成分が異なります。食品工業では原料となる生鮮食品の洗浄、設備、器具、容器の洗浄が必要です。洗浄の際には通常の汚れに加えて、特に微生物への配慮が重要です。界面活性剤を主体とした洗剤を使う洗浄に加えて、必要に応じて高温水、高温蒸気を使った殺菌も行われます。 一方、繊維工業では、原料となる羊毛の脱脂洗浄に加えて、紡糸、紡績、織布の各工程で紡糸油のような処理油が使われるので洗浄が必要です。さらに染色加工工程では処理前はもちろん、処理後も十分な洗浄が行われます。界面活性剤を主体とした洗剤が使われます。

現在の日本の製造業では、金属加工、機械工業が最も重要な分野になっています。この工業に使われる洗剤について述べます。金属加工や熱処理時には切削加工油など様々な油が使われ、次の工程に行く前に脱脂洗浄が必要になります。またパフ研磨の後にはパフ研磨材(砥粒を主体に油脂、界面活性剤)の除去が必要になります。 一方、ハンダ付けを行ったあとにはフラックス(松脂が主体)除去が必要になります。塗装やメッキの前には洗浄が不可欠です。 このような様々な汚れを洗浄する工業用洗剤には有機溶剤(炭化水素系、アルコール系、塩素系溶剤など)、準水系(炭化水素+界面活性剤+グリコールエーテル、N-メチルピロリドン+水など)、水系(中性の界面活性剤+水、アルカリ性の界面活性剤+アルカリ+水、酸性の界面活性剤+酸+水)の洗剤が洗浄対象物、汚れの種類に応じて使い分けられます。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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