工具の通販モノタロウ 消臭・芳香剤 化学製品・高分子製品の基礎講座 香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類

化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第3章 化学製品の基本

3-10 香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類

空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。 嗅細胞にあるにおい分子受容体のタンパク質遺伝群が1991年に発見され(2004年ノーベル医学、生理学賞)、においの感知機構の解明が大きく進みました。しかしにおい分子受容体は、人間ですら約400種もあり、においと物質の化学構造の関係は現在でも解明できていません。

「におい」とひらがなで書くと評価は入りませんが、「匂い」と書けば「香り」、「薫り」と同じく良い「におい」を指し、「臭い」と書けば悪い「におい」、くさい「におい」を意味します。 したがって香料は良い「におい」を発する化学製品であるのに対して、消臭剤、脱臭剤は悪い「におい」を消したり、除いたりする化学製品になります。

まず香料について述べます。香料は次の表のように分類されます。原料による分類では天然香料と合成香料に分けられます。天然香料は、主に植物、一部には食肉、魚肉、甲殻類を原料に、その香り成分を圧搾、抽出、蒸留などの物理的手段や酵素処理などの化学的手段を使って得た製品です。 合成香料は化学反応によってつくられた製品で、原料は問いません。合成香料になる代表的な化学物質としては、テルペン系炭化水素、テルペンアルコール、芳香族アルコール、酢酸エステルなどのエステル類、脂肪族アルデヒドなどがあります。 その他にも非常に多くの物質が合成香料として使われています。テルペンとは2つ以上のイソプレン(炭素数10)を構成単位とする化合物を言います。イソプレンは天然ゴムの構成成分です。このように得られた香料が単味で製品になることは少なく、何種類かの香料を調合して製品になります。 これを調合香料と言います。どのような香料をどのように配合して調合しているかは、まさに香料メーカーの腕の見せ所であり、最大の企業秘密です。天然香料は自然がつくった調合香料と言えましょう。 天然香料から、その一成分、たとえばハッカ油からl-メントールだけを結晶化させて取り出すと日本では合成香料の扱いになります(単離香料)。

香料の分類

分類法 種類
原料による 天然香料 動物由来香料
植物由来香料
合成香料 単離香料
半合成香料
合成香料
成分数による 単品香料
調合香料
用途による フレーバー
フレグランス

注)半合成香料とは天然香料の成分を原料に別の物質を合成してつくった製品

料は使い方によって大きく2つに分類されます。食品向けの調合香料がフレーバー(食品香料)です。フレーバーは、香料生産額の7~8割を占めます。食品の香りはおいしさの重要な要素であり、加工食品、飲食品や歯みがきの生産に使われます。 当然のことながら、食品添加物として安全性が求められます。食品衛生法(2-2 有害化学物質の安全規制  参照)の規制を受けており、指定を受けた香料だけしか調合に使用できません。一方、フレグランス(香粧品香料)は、化粧品、洗剤・トイレタリー製品、芳香剤に使われます。 化粧品というと香水を思い出しますが、香料は香水ばかりでなく化粧品全般に広く使われます。このほか、クリーナーやワックスなどの住居・家具用製品、生ゴミ消臭剤、靴墨、インク、糊、塗料などの日用雑貨品にも使われます。 変わった用途としては、良い香りとは言えませんが、都市ガスやプロパンガスのガス漏れを警告するための保安用香料もフレグランスの利用例です。

香料を使用する目的は次の図のように3つあると言われます。1つは言うまでもなく着香、すなわち良い香りをつけることです。2つ目はマスキングです。嫌な臭いを隠してしまうことです。3つ目は機能性付与です。たとえば、アロマテラピーは香料を使った療法です。 食品に使うスパイスには抗菌作用、抗酸化作用、ハーブ類には害虫忌避作用が期待されます。

  • 香料の目的
  • 着香
  • マスキング
  • 機能性の付与

次に消臭剤と脱臭剤の説明に移ります。消臭剤、脱臭剤、防臭剤の区別はなかなか困難で、次の表に示すように厚生省の定義と業界の自主基準の定義とは、脱臭剤以外は微妙に食い違います。消臭剤は臭気を化学的作用で除去するものという部分は同じです。 しかし厚生省の定義では消臭剤に生物的作用で除去するものも含みます。 これは酵素または微生物そのもの(バチルス菌など)を使って臭気を除去する製品が市場に出回っているためと説明されています。一方、業界の定義では感覚的作用で除去又は緩和するものを消臭剤にしていますが、これは厚生省の定義の防臭剤に該当します。 業界の防臭剤の定義では消臭剤や脱臭剤と区別がつかないようにも思えます。

消臭剤、脱臭剤、防臭剤の定義

製品 (1)厚生省の説明 (2)芳香消臭脱臭剤協議会の説明
消臭剤 臭気を化学的・生物的作用等で除去又は緩和するもの 臭気を化学的作用または感覚的作用等で除去又は緩和するもの
脱臭剤 臭気を物理的作用等で除去又は緩和するもの 臭気を物理的作用等で除去又は緩和するもの
防臭剤 臭気を他の香り等でマスキングするもの 他の物質を添加して臭気の発生や発散を防ぐもの
  • 出典:
  • (1)平成12年3月31日厚生省生活衛生局企画課「芳香・消臭・脱臭・防臭剤 安全確保マニュアル作成の手引き」
  • (2)平成16年11月11日改定版 芳香消臭脱臭剤協議会 「芳香・消臭・脱臭剤の自主基準」

臭気を化学的作用で除去するために使われる化学物質としては、両性界面活性剤(1-7 界面活性剤の用途と種類  参照)、植物抽出物(竹、お茶などから)、安定化二酸化塩素や塩素化イソシアヌル酸塩のような酸化剤、イオン交換機能を持った無機物質(ベントナイトなど)があります。 臭気を感覚的作用で除去又は緩和する方法には2つあります。 1つは香料の目的で説明したマスキングです。もう1つはペアリングです。これは悪臭とは別の臭いの物質を同時に作用するように発散させて、新たなにおいの感覚を生じさせ、悪臭を感じなくさせる方法です。マスキング剤に比べて、少量のペアリング剤で効果があるものが見いだされ、商品化されています。

臭気を物理的作用で除去又は緩和する脱臭剤としては、昔から冷蔵庫の臭気除去に使われてきた活性炭が有名です。そのほかシリカゲル、ゼオライトのような無機多孔質物質も使われてきました。 最近よく宣伝される消臭効果を謳った商品にはシクロデキストリンのような包接化合物を使ったものがあります。これはナノサイズの環状分子が臭気の原因となる分子を取り込んでしまう効果(包接と言います)を利用しています。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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