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化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第2章 化学製品の利用に当たって留意すべき法規制

2-3 化学物質の効能と安全の両方を求める規制

化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。

(1)医薬品医療機器等法

2014(平成26)年に薬事法が改名されて医薬品医療機器等法(この略称も長すぎるので薬機法と略す場合もあります)になりました。薬事法は毒劇法に次いで古くからある化学物質の安全規制法です。開国以来、外国の医薬品が輸入されるようになりましたが、粗悪品が多数混じっていました。 明治19年に日本薬局方が公布されて医薬品の性状、品質が決められ、さらに明治22年に薬品営業並薬品取扱規則が定められ、日本薬局方に適合しない医薬品が禁止されました。これが薬事法の始まりです。

医薬品医療機器等法は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器を対象としています。いずれもモノタロウではほとんど取り扱っていない商品なので詳細な説明は省略しますが、医薬品工業は、すべての工業分野の中で最も厳しく規制されています。製造業者、販売業者になるには許可が必要です。 ある化学物質、化学製品の効用を宣伝して製造販売を勝手に始めたために、薬事法違反として摘発された事件は過去にいくつも起きています。医薬品や化粧品は自由に商売を開始することができないのです。 さらに新製品を製造販売しようとする際には、決められた手順に従った動物実験や臨床試験のデータを揃えて提出し、審査を受けて承認を得なければなりません。その際に、既存の製品よりも長所があり、なおかつ安全性が確保されなければ承認されません。 製造販売後も効能、副作用、安全性のチェックが続きます。研究から製造まで細かな基準が定められており、それを遵守しなければ許可を取り消されることもあり得ます。わざわざ人体に化学物質を投与するのですから当然です。表に示す数々の薬害事件を踏まえて作り上げられた安全規制なのです。

日本で起きた重要な薬害事件

発生年代 事件名 備考
1950年代末~60年代 サリドマイド事件 エナンチオマーによる催奇形性
1950年代半ば~1970年 スモン事件 整腸剤キノホルムによる副作用
1980年代 薬害エイズ事件 非加熱血液製剤によるウイルス感染
1980年代~90年代 薬害肝炎事件 非加熱血液製剤によるウイルス感染
1993年代 ソリブジン事件 帯状疱疹治療薬の臨床試験判断ミス

(2)農薬取締法

農薬取締法は1948(昭和23)年に制定された、医薬品規制に比べるとはるかに新しい法律です。第二次世界大戦後、DDTを筆頭にして有機農薬が普及し、農薬が広く使われるようになったことへの対応でした。農薬は医薬品と同様に製品の品質、効能、薬害(人間や作物への安全性)が厳しく規制されています。 それに加えて、農薬は、水田、畑など環境中に意図的に化学物質を散布するので、人間のみならず環境生物に対する毒性、残留性(分解性)、蓄積性についても規制されています。 この独特の規制はDDT、BHCなどの塩素系有機農薬が、環境中で分解しにくく(残留性)、しかも生物体内への蓄積性があったために食物連鎖の上位の生物ほど高濃度に農薬が蓄積され、様々な毒性を発揮したことへの反省から生まれました。この規制の考え方は、現在では化学物質審査規制法として、すべての化学物質に対しても適用されるようになっています。 しかし、農薬の製造や販売の規制は、医薬品ほど厳しいものではなく、許可制はありませんが、農薬の製造や輸入にあたっては登録を受けなければなりません。 登録の申請にあたっては、すでに述べた、薬効、薬害、毒性、残留性、蓄積性などに関する試験成績を提出する必要があります。モノタロウの商品説明でも農林水産省登録第何号と明記しています。農林水産省登録番号が書いていない商品は厳密に言えば農薬ではありません。この辺りは少々複雑なので表をご覧ください。

農薬及びそれに類似した製品と規制

駆除対象 製品の種類 規制
農作物の病害虫、雑草 農薬 農薬取締法
衛生害虫、感染症の原因となる細菌・ウイルス 家庭用殺虫剤、防疫用薬剤
(医薬品、または医薬部外品)
医薬品医療機器等法
不快害虫、医療害虫、建築害虫 家庭用殺虫剤等 生活害虫防除剤協議会の自主基準

コクゾウムシなど貯蔵穀物の害虫を対象とした燻蒸剤は食品衛生法で規制されています。蚊、ハエ、ゴキブリなどの衛生害虫を対象とする家庭用殺虫剤は(1)で述べた医薬品医療機器等法による医薬品または医薬部外品の扱いを受けます。 一方、アリ、ハチ、シロアリなど不快害虫、衣料害虫、建築害虫の場合には農薬取締法、医薬品医療機器等法の対象外になります。これら薬剤のメーカーの団体である生活害虫防除剤協議会が自主基準(有効性、安定性、安全性)を定めており、この基準を満たした製品のみ登録マークを添付しています。

農薬は怖いものとのイメージが強いですが、毒劇法で規制を受ける農薬は現在では非常に少なくなりました。モノタロウの商品説明でも、ほとんどの農薬は[毒劇区分]普通物となっており、毒物、劇物ではなくなっています。

(3)肥料取締法

1888(明治21)年に日本で初めての化学肥料・過リン酸石灰の生産が始まりました。1896年には硫安の輸入も始まり、化学肥料が次第に普及していきました。一方で有効成分が十分に入っていない不正な肥料も出回るようになり、1899(明治32)年に肥料の品質保全と公正な取引を目的に肥料取締法が公布されました。 第二次世界大戦後の1950(昭和25)年に肥料取締法は全面改正されましたが、目的はそのまま引き継がれました。肥料取締法では肥料を特殊肥料と普通肥料に大きく分けています。特殊肥料は米ぬか、堆肥、草木灰など農林水産大臣が指定したものです。普通肥料は特殊肥料以外のすべてで、化学肥料や粉末状の魚かすなどです。 普通肥料は、肥料の種類ごとに含有されるべき有効成分(窒素、リン、カリなど)の最小量と有害成分(カドミウム等)の最大量が公定規格として決められています。生産や輸入する前に農水大臣や知事に銘柄ごとに登録する必要があります。さらに普通肥料の取引に当たっては、保証票の添付が義務付けられています。 普通肥料に該当する商品には登録番号や決められた保証票が記載されています。一方、特殊肥料については、2000(平成12)年から堆肥と動物のはいせつ物については、原料や実際に含有されている主要肥料成分が表示されるようになりましたが、それ以外の特殊肥料は事実上の規制対象外的扱いを受けています。 ただし、近年は国民の健康保護という視点が加わるようになったことから汚泥等を原料とする特殊肥料については有害成分の最大量が公定規格として定められ、品目ごとの登録制に移行しました。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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