化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第2章 化学製品の利用に当たって留意すべき法規制

2-2 有害化学物質の安全規制

火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。その半面、火事を起こす危険がつきまとうことになりました。化学製品も同じです。 化学製品は生活や産業に大きな利便性をもたらしますが、急性や慢性の毒性を持つ物質があることを良く知って、うまく使いこなさなければなりません。 化学物質の安全性確保のための法規制は、様々な観点からたくさんあります。化学製品やその原料である化学物質の製造者・販売者に対する規制ばかりでなく、使用者に対する規制もあります。その中でモノタロウのお客様に関係の深い使用者に対する規制を中心に説明します。

(1)毒物劇物取締法(毒劇法)

毒劇法は最も古くから存在してきた化学物質の安全規制です。始まりは明治7年です。 口、皮膚、呼吸を通して実験動物(マウス、ラットなど)に化学物質を投与した際に、実験動物の半数が死亡する体重kgあたりの投与量mg(半数致死量LD50)などによって毒物、劇物が指定されます。毒物の方がLD50は小さく、毒性が強い物質です。 すべての化学物質を急性毒性の視点から区分し、毒劇物による事故や犯罪の発生を防止することが目的です。製造者、販売者に対する規制が中心ですが、使用者に対しても規制がかけられています。盗難、漏出、誤飲の防止義務です。毒劇物の売買には規制がかけられています。 購入時には販売者は購入者の氏名、住所を記録しなければならず、また18歳未満者への販売禁止も決められています。したがって毒劇物の使用者は、購入時に名前、年齢、住所などを聞かれることになります。モノタロウでも、最終使用先事業者名を必要とし、個人への販売を差し控えている製品があります。

毒物には身近な化学製品はありませんが、劇物には表に示すようにありふれた化学製品が多数あります。これらには、製造者、販売者だけでなく使用者も、流出・漏洩事故を起こしている例が毎年多数発生しています。

比較的ありふれた劇物

劇物 分類
酸・アルカリ 塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア、水酸化ナトリウム
有機溶剤 トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メタノール、酢酸エチル
その他 過酸化水素水、フェノール、ホルムアルデヒド

(2)有害物質含有家庭用品規制法

毒劇物を含有した製品が家庭に入り、事故を起こすことを消費者安全の観点から防止することを目的とした法律です。昭和48年に制定された比較的新しい法律です。 家庭用・住宅用洗浄剤、エアゾル製品、家庭用接着剤・塗料・ワックス・靴クリーム、つけまつげ用などの接着剤、多くの繊維製品が規制対象の家庭用品として指定され、家庭用品ごとに特定の毒劇物の含有量、溶出量、発散量が指定基準を超えないように規制されています。家庭用品と規制物質の例を表に示します。

有害物質を含有する家庭用品の規制の例

有害物質 対象家庭用品
アゾ化合物(化学変化により容易に24種の
特定芳香族アミンを生成するもの)
1)アゾ化合物含有染料を使用した繊維製品
2)アゾ化合物含有染料を使用した皮革毛皮製品
塩化水素、硫酸 住宅用の洗浄剤で液体状のもの
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム 家庭用の洗浄剤で液体状のもの
テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン 家庭用エアゾル製品
家庭用の洗浄剤
トリブチルスズ化合物 1)家庭用接着剤
2)家庭用塗料
3)家庭用ワックス
4)靴墨、靴クリーム
5)おしめ、よだれ掛け
ホルムアルデヒド 1)乳幼児繊維製品
2)下着
3)つけまつげ、靴下用接着剤

2016年4月から、すべてのアゾ化合物ではありませんが、化学変化により容易に24種の特定芳香族アミンを生成するアゾ化合物に対する規制が始まりました。アゾ化合物は染料に使われるので、繊維製品、皮革製品については注意する必要があります。

また、この法律で規制できるかどうか判断が難しいところですが、2016年5月頃に世界中から注目された韓国での「加湿器用殺菌剤による消費者大量死亡事件」は、他国のこととは言え、他山の石とすべき事件です。化学製品の家庭内での通常の使用によって、このような事件が起こることがあってはなりません。

(3)食品衛生法

食品衛生法は食品の安全性確保を目的とした法律です。食品自体について多くの規制がかけられていますが、そればかりではありません。食品に使われる食品添加物、食品中に残留する農薬はもちろん、食品の調理に使われる器具、食品の包装材料、さらにおもちゃまで非常に幅広く規制対象になっています。 調理器具、包装材料、おもちゃについては、指定された有害物質の含有量や溶出量で規制されています。これらにはプラスチックが大量に使われており、その原料モノマー、樹脂添加物(安定剤・着色料・可塑剤など)が規制されています。急性毒性だけではなく、慢性毒性、発がん性などの視点から規制の可否が決められています。

食品衛生法によるプラスチック製調理器具、包装容器の規制例(このほかにも多数の規制があります)

有害物質 試験法 対象プラスチック
カドミウム 材質試験 全てのプラスチック製品
重金属 4%酢酸溶出試験 全てのプラスチック製品
過マンガン酸カリウム消費量 水溶出試験 フェノール樹脂、メラミン樹脂、
ユリア樹脂を除くすべてのプラスチック製品
塩化ビニル、ジブチルスズ化合物等 材質試験 塩化ビニル樹脂製品
BPA、アミン類 材質試験 ポリカーボネート製品
揮発性物質 材質試験 ポリスチレン製品
アンチモン、ゲルマニウム 4%酢酸溶出試験 PET製品

塩化ビニル樹脂製品に最もよく使われる可塑剤DEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、通称DOP、フタル酸ジオクチル)については、2002年に油性食品に触れる調理用手袋などの器具、包装材料、おもちゃへの使用が禁止されました。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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