化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第4章 高分子製品を理解するための基本

4-3 樹脂添加剤

4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。そのほか、強度を高めるため、軟らかい製品をつくるため、酸素や紫外線による劣化を防止するため、燃えにくくするためなど様々な目的に沿って、色々な低分子の有機化合物や繊維状、粉末状などの無機化学品、高分子がプラスチックを成形する前に加えられます。これらの薬品・材料を樹脂添加剤(プラスチック添加剤)と呼びます。

量的に大きな樹脂添加剤には、充填材・補強材と可塑剤があります。充填材・補強材は、プラスチック製品の強度や耐熱性を向上させるために使われます。充填材・補強材としては、図に示すように布状、繊維状、粉状の製品が使われます。炭素繊維を航空機本体や翼に使っていることが最近話題になりますが、実は炭素繊維で強化したエポキシ樹脂を使っています。また家庭のお風呂や漁船、プレジャーボートなどにはガラス繊維で強化した不飽和ポリエステル樹脂がよく使われます。ポリプロピレン製のプランターや鉢が古くなると、粉をふいた状態になることがあります。プランターなどには、強度を高めるためにタルクや炭酸カルシウムのような粉状の充填材が加えられていますが、長い間炎天下で使っているうちに、表面のポリプロピレンが劣化し、充填材が表面に出てきてしまったためです。このほか、合成繊維やフィルムなどの高分子製品では透明性や光沢を消すために粉状の樹脂添加剤(酸化チタンなど)が使われることもあります。

比較的大量に使われる樹脂添加剤

可塑剤はもっぱら軟質塩化ビニル樹脂製品をつくるために大量に使われています。他のプラスチックにはあまり使われません。塩化ビニル樹脂は、単独では硬いプラスチックで、下水道管や雨樋、波板などによく使われます。塩化ビニル樹脂100部に対して可塑剤を40~100部と大量に加えると、農業用ビニールフィルム、ラップフィルム、合成皮革(レザー)、電線被覆などに使われる軟らかな製品が得られます。可塑剤には、フタル酸エステル(DOP、DIDPなど)が多く使われますが、食品用や耐寒用途には脂肪酸エステル(アジピン酸エステル、セバチン酸エステルなど)が、また難燃用途にはリン酸エステル(TCP、TOPなど)が使われます。

量的に少ない樹脂添加剤は、表に示すように多くの種類があります。このような樹脂添加剤は目的によって次の3つに大別できます。(1)成形加工性を改善する。(2)プラスチック製品としての性能・特性を発揮させる。(3)プラスチック製品の性能を改善する。

表タイトル

種類 働き 製品
滑剤・離型剤 溶融した樹脂の流動性や成形後の型離れ性を改善 高級アルコール系、金属石けん系、高級脂肪酸アマイド系
安定剤 成形加工中の加熱分解を防止 金属石けん(Ca塩、Ba塩、Pb塩、Zn塩)、有機スズ系
結晶核剤 透明性、機械特性、サイクルタイムの向上 ソルビトール系、リン酸エステル金属塩
着色剤 製品に着色 マスターバッチ、カラードコンパウンド、分散染料
発泡剤 ガス発生により軽量、断熱、弾力、吸水などの製品をつくる アゾ系(AIBN、ADCA)、ニトロソ系(DPT)、スルホニルヒドラジド゙系(OBSH)
酸化防止剤 空気中の酸素、オゾンによる酸化防止 フェノール系(BHT、BHA)、リン酸系(TPP)
紫外線吸収剤 太陽光の紫外線による分解防止 サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系
紫外線安定剤 紫外線吸収剤の働きを向上 ヒンダードアミン系(HALS)
帯電防止剤 帯電による危険・不快感・汚れ防止 界面活性剤
難燃剤 燃えにくくする ハロゲン系(TBBA、塩素化パラフィン)、リン系(TCP)、無機系(水酸化物)
防黴剤・抗菌剤 カビや雑菌の繁殖防止(抗菌剤) チオサルファイド銀錯体、バイナジン、プリベントール


(1)には滑剤・離型剤、安定剤があります。滑剤・離型剤は、成形加工時に溶融した樹脂の流動性を改善します。また成形加工終了後、金型からプラスチック製品を取り出しやすくする効果もあります。ただし、滑剤・離型剤を加え過ぎると透明なプラスチック製品が時間経過とともに粉をふくことがあるので注意が必要です。安定剤は塩化ビニル樹脂のような成形加工時の熱安定性に不安のあるプラスチックによく使われます。熱分解によって発生する塩化水素を除く作用のある金属石けんがよく使われます。

(2)には着色剤、発泡剤、結晶核剤があります。着色剤は、文字通りプラスチック製品を着色するために加えられます。成形加工時に粉状の顔料を直接使うと希望する色合いにするために少量の顔料を厳密に計量することが困難な上、顔料の飛散など取り扱いが面倒なので、プラスチック粒子(ペレット)に高濃度の顔料をあらかじめ練り込んだマスターバッチがよく使われます。発泡剤は、軽量、断熱・保温、柔軟、弾力、吸水などの性能をプラスチック製品にもたせるために使われます。熱分解によってガスを発生させるアゾ系製品(AIBN、ADCAなど)、ニトロソ系製品(DPTなど)、スルホニルヒドラジド系製品(OBSHなど)などが使われます。またポリスチレンでは、あらかじめ原料樹脂にブタンなどのガスを含ませたビーズ(ペレット)が販売されており、これを成形して発泡スチレン製品をつくります。気泡のつくり方には、連続気泡と独立気泡があります。連続気泡では吸水性、通気性、柔軟性に優れるプラスチック製品が得られます。クッションやスポンジに向く製品です。一方、独立気泡は、プラスチックの隔壁によって気泡が連続しないので、発泡ポリスチレンに見られるように、ある程度の剛直性、断熱性、衝撃吸収性、軽量・水浮揚性のあるプラスチック製品が得られます。また発泡倍率は数倍から50倍程度のものがよく使われます。一般に発泡倍率が大きいほどやわらかい発泡製品になります。結晶核剤は、造核剤とも呼ばれ、ポリプロピレンやPETのような結晶性樹脂で透明な成形品をつくりたい時によく使われます。微細な結晶を多数つくらせることによって結晶成長による不透明化を防止します。また寸法安定性や剛性の改善にも役立ちます。さらに結晶核剤は成形サイクルタイムの削減効果もあるので(1)で述べた成形加工性の改善にも役立ちます。

(3)には酸化防止剤、紫外線吸収剤・安定剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤などがあります。酸化防止剤は、(1)の成形加工時の樹脂の酸化防止にも役立ちますが、プラスチック製品の寿命を決定する大きな要因である酸化防止を主目的とします。紫外線吸収剤・安定剤もプラスチック製品の耐久性を高めることを目的としています。プラスチックは電気絶縁性が高いために、帯電してほこりを吸着しやすく、プラスチック製品の表面が汚れてきます。帯電防止剤は主に界面活性剤で、プラスチック製品の表面の絶縁性を低下させる効果があります。難燃剤は可燃性物質が多いプラスチック製品の火災防止のために使われます。電気製品に使われるプラスチック製品は、法規制によって使用が義務づけられている場合があります。プラスチック製品の表面にはカビが生え、雑菌が繁殖することがあります。台所や風呂場などで、プラスチックの壁・天井やシーラントにしつこい黒カビや雑菌によるぬめりが発生することはよく経験します。これを防止する目的で、防黴剤や抗菌剤が使われます。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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