工具の通販モノタロウ 化学製品・高分子製品の基礎講座 熱可塑性高分子、熱硬化性高分子

化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第4章 高分子製品を理解するための基本

4-5 熱可塑性高分子、熱硬化性高分子

すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。熱可塑性高分子は成形加工後でも、再度加熱すると軟化・溶融する高分子です。熱硬化性高分子は、成形加工後は加熱しても、もはや軟化・溶融することはなく、無理に加熱を続ければ成形品の形を保ったままで熱分解し、最後には炭化してしまいます。

熱可塑性高分子と熱硬化性高分子の違いは、図のように高分子の分子鎖同士が結合しないでいるか、それとも分子鎖同士がつながっている(架橋と言います)かの違いです。分子鎖が結合しないでいると、加熱によって分子鎖の熱運動が活発化し、最後には分子鎖同士が自由に動く状態になります。これが軟化や溶融という現象です。熱可塑性高分子は図のように1次元の分子鎖か、それが部分的に枝分かれした分子鎖の構造をしています。一方、分子鎖同士がつながっていると、全体で一まとまりの分子になっているので加熱しても個々の分子鎖同士が自由に動くことはできず、成形加工した形のままを保ちます。

分子モデル図

代表的な熱可塑性高分子には、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、PET、ナイロン(ポリアミド)、ポリアクリロニトリル(アクリル繊維)、各種のエンジニアリングプラスチック、熱可塑性エラストマーなどがあります。熱可塑性高分子の長所である成形加工性の良さを生かした、高速、大量生産の成形品用途によく使われます。一方、代表的な熱硬化性高分子には、加硫ゴム(架橋ゴム)、フェノール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などがあります。硬化反応に時間がかかるために成形加工の生産性が熱可塑性高分子に比べて低いものの、独自の機能(弾性、耐久性、耐熱性、強度、硬度など)が求められる用途に使われます。

ただし、注意していただきたいのは、分子構造の設計や重合方法によって、高分子は熱可塑性にも、熱硬化性にもなり得ることです。たとえばポリエチレンは圧倒的に熱可塑性高分子として使われますが、図のような高圧電線ケーブルの絶縁体に使われる場合には、放射線重合によってポリエチレン分子鎖同士を結合させ(架橋ポリエチレン)、熱硬化性高分子として使っています。耐熱性を向上させる目的です。

高圧電線ケーブル

ポリウレタンは硬質や軟質のウレタンフォーム、合成皮革、接着剤、塗料などの用途では熱硬化性高分子になるように分子設計して使いますが、ゴムのように伸縮性のある繊維(スパンデックスなど)の用途には、分子鎖が1次元になるように分子設計し、熱可塑性高分子として使います。

熱硬化性高分子でも、架橋の度合いによって性質が大きく変わることがあります。たとえば天然ゴムに硫黄を加えて適度に架橋すると弾性のあるゴムになりますが、大量に硫黄を加えると架橋が多くなり、硬い樹脂状のエボナイトと呼ばれる材料になります。赤ちゃんの紙おむつによく使われる高吸水性樹脂は、アクリル酸とアクリル酸エステルを共重合させ、さらに架橋させた熱硬化性高分子です。架橋度合いによって吸水倍率、吸水速度、吸水後の膨潤物の形態保持力、保水性などが大きく変わるので、紙おむつ用、蓄冷材用、農業園芸用、結露防止シート用、使い捨てカイロ用など様々な用途ごとに架橋度合いを微妙に変えています。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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