化学製品・高分子製品の基礎講座
2-4 環境保全を目指す法規制
環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。日本では環境基本法(1993年制定)を頂点とする環境法の体系が整備されています。そのうちモノタロウの利用者に関係の深いVOC規制と資源有効利用促進法・容器包装リサイクル法について説明します。
塗料、接着剤、印刷インキによく使われる有機溶剤は、使用後は揮発します。このような有機化合物をVOC(揮発性有機化合物)と呼びます。VOCは揮散後、大気中で紫外線、空気と反応して光化学オキシダントとなり、光化学スモッグによる健康被害を発生させます。 このため大気汚染防止法に基づいてVOC規制が2006年4月から開始されました。
規制の対象は、VOCを排出する可能性がある塗装、接着、印刷関係施設、VOCを洗浄剤として使用する工業用洗浄施設などのうち、送風機の送風能力が一定規模以上の9種類の施設です。これらはVOCを大量に排出する施設です。規制対象の施設ごとにVOCの排出基準(濃度)が定められ、その遵守が義務付けられています。 違反に対しては都道府県知事から改善命令が行われますが、大気汚染防止法のばい煙(硫黄酸化物、ばいじん、有害物質)に対する排出規制のような直罰規定(排出基準違反に対して故意、過失を問わず違反者に対して刑罰を科す)は適用されません。そのほか、VOCの排出規制対象施設の設置者は、施設の届出、VOC濃度の測定、記録の義務もあります。
一方、VOCを大量に排出する施設以外でも、VOC排出者の創意工夫に基づく自主的取り組みを政府は重視しています。それに対応した動きが工業会などで行われています。
たとえば日本塗料工業会は、2004年5月に「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制ガイドライン」を発表し、塗料の製造者・販売者、塗装関係者にVOC排出抑制を呼び掛けています。具体的なVOC排出抑制方法として3つ挙げています。ひとつは塗料の種類の選択です。 溶剤塗料から水系塗料、無溶剤塗料、ハイソリッド塗料、粉体塗料に変更することです。しかし、これは作業性、乾燥性、コストアップなどから簡単な話ではありません。二つ目は塗装方式の改善です。エアスプレーをローラーや電着塗装に変更するなどです。 しかし、これもすべてに適用できるわけではありません。3つ目の方法はVOC排出処理設備の設置です。この方法は効果がありますが、相当に大きな初期投資、運転費、維持管理費が必要になります。 このため、溶剤塗料からの移行は簡単な道ではありませんが、溶剤塗料を使用する場合のために日本塗料工業会では、2006年11月に「低VOC塗料自主表示ガイドライン」を発表しました。 「低VOC塗料(溶剤形)」とは、塗料中のVOC含有量が30重量%以下の溶剤塗料です。塗料の使用者が分かりやすい表示「低VOC塗料(溶剤形)」をすることにより、VOCを低減した塗料の普及拡大を図ることにしています。
一方、日本接着剤工業会は2008年2月に「室内空気質汚染対策のためのVOC自主管理規定」を制定し、住宅内装関連の接着剤に対して4種類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン)のVOC物質を配合していない製品に「4VOC基準適合製品」の登録・表示制度を開始しました。 モノタロウで販売している製品にも、「規格」として、この表示をしばしば見掛けます。
VOC規制導入以前から塗料や接着剤メーカーは、有機溶剤を使わない製品開発に努力してきました。VOC規制のための大気汚染防止法改正は2004年5月に公布され、その後2年近い猶予期間を経て2006年4月から実施されました。このため、VOC規制導入によって、突然に大きな製品構成の変化が起こったわけではありませんが、 日本で生産される塗料については表に示すように溶剤塗料の占める割合が減少傾向にあり、代わって水系塗料が増加しています。しかし、完全に有機溶剤を使わない水性塗料や無溶剤塗料の割合が伸びているわけではなく、塗料の種類の変更の困難さを示しています。
合成樹脂塗料生産量の内訳推移
1993年 | 2003年 | 2008年 | 2013年 | 2015年 | ||
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溶剤塗料 | 63% | 59% | 57% | 55% | 53% | |
水系塗料 | 27% | 31% | 34% | 36% | 38% | |
エマルション塗料 | 16% | 18% | 18% | 20% | 23% | |
水性塗料 | 10% | 14% | 16% | 16% | 15% | |
無溶剤塗料 | 10% | 10% | 9% | 10% | 9% |
出典:経済産業省化学工業統計
モノタロウに限らず、多くの商品は購入時に容器に入れられ、包装されて手許に届きます。家庭から出る廃棄物のうち、容器包装が占める割合は、平成27年度において容積比率で55%、湿潤重量比率で22%を占めました。容器包装廃棄物の中ではプラスチックがもっとも多く容積比率で40%、次いで紙類が10%を占めました。 この2つだけで、容器包装廃棄物の大部分を占めることになります。
資源有効利用促進法は、廃棄物のリサイクル(原材料として再利用)、リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)を総合的に進めるための法律です。容器包装リサイクル法は、容器包装廃棄物に着目した法律です。このような個別物品としては、容器包装以外に家電、自動車、建設資材、食品があります。
資源有効利用促進法、容器包装リサイクル法のポイントは分別収集なので、すでに皆様には目新しいことはありません。PETボトル、プラスチック容器、段ボール、その他紙製容器、ガラス製容器、アルミ製容器、スチール製容器など、市町村によって分別の種類が異なる場合がありますが、日本ではすでに分別収集は軌道に乗ったと言えましょう。 生活習慣になり、規制されているという意識は少なくなりました。
この法律以前から、アルミ、スチール、紙は、リサイクルの優等生でしたが、図に示すようにプラスチックも、1990年代半ばまでは有効利用率が20%台に低迷していたものの、これらの法律施行後、サーマルリサイクルを中心にして有効利用が進み、現在では有効利用率が80%台に到達しました。 ちなみにプラスチックのサーマルリサイクルは、焼却熱を発電その他に有効利用し、また固形燃料やセメント原燃料として利用することです。サーマルリサイクルに次いで多いマテリアルリサイクルはプラスチックのままでの再利用であり、ケミカルリサイクルは高炉・コークス炉の原料、ガス化・油化・モノマー化して利用することです。

資源有効利用促進法は、廃棄物のリサイクル(原材料として再利用)、リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)を総合的に進めるための法律です。容器包装リサイクル法は、容器包装廃棄物に着目した法律です。このような個別物品としては、容器包装以外に家電、自動車、建設資材、食品があります。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。