化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第3章 化学製品の基本

3-2 化学肥料の特徴と分類

田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。このために肥料として必要な養分を田畑に補給することが必要になります。植物には17種類の元素が必要です。 このうち、炭素C、酸素O、水素Hの3つは、水と空気(二酸化炭素、酸素)から吸収されるので肥料としては必要ありません。窒素N、リンP、カリウムKの3元素は肥料として特に大量に必要とされるため肥料三要素と呼ばれます。Nは葉、茎の伸長に、Pは開花や結実の促進に、Kは根や茎の強化に不可欠です。 次いでカルシウムCa、マグネシウムMg、硫黄Sも比較的大量に必要となる元素です。 残りの8元素、鉄Fe、銅Cu、マンガンMn、亜鉛Zn、ホウ素B、モリブデンMo、塩素Cl、ニッケルNiも必須ですが、少量しか必要とせず微量要素と言われます。実際に肥料として施す場合には、元素ではなく化合物の形で行われるので、水への溶解性、 土壌への吸着性、微生物による分解性、酸性・アルカリ性などが化合物の形によって異なることに配慮する必要があります。

肥料には次の図に示すように化学肥料と有機質肥料があります。肥料を施してすぐに効果が現れるものの長続きしないものを速効性肥料、ゆっくり効果が現れて長続きするものを緩効性肥料と呼びます。 化学肥料には速効性のものが多く、元肥にも使われますが、追肥に向いています。有機質肥料は、微生物による分解によって植物が吸収できる養分となるものが多いので、多くは緩効性肥料です。ただし、草木灰、乾燥鶏糞、発酵油かす(とくにダイズ油かす)は速効性であり、魚かすも比較的速効性です。

肥料の分類と種類

化学肥料 単肥 窒素肥料 硫安、尿素、硝安、石灰窒素など
リン酸肥料 過リン酸石灰、熔成リン肥など
カリ肥料 硫酸カリウム、塩化カリウムなど
石灰質肥料 消石灰、炭酸カルシウム、苦土石灰など
苦土肥料 水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなど
微量要素肥料
複合肥料 配合肥料
化成肥料 普通化成
高度化成
有機質肥料 植物質肥料 油かすなど
動物質肥料 魚かす粉末、肉かす粉末、骨粉など
特殊肥料 米ぬか、草木灰、家畜糞、堆肥など

化学肥料の中でも、粉状、液状のものは最も速効性があり、追肥に向きます。一方、粒状、ペレット状のものはそれに比べて速効性が穏やかになり元肥にも使われます。化学肥料にも緩効性のものがあります。 合成樹脂でコーティングして溶出速度を調整した被覆肥料、加水分解や微生物による分解によって、はじめて肥効が現れるIB肥料(イソブチルアルデヒドと尿素を縮合)、ウレアホルム(ホルムアルデヒドと尿素を縮合)、CDU(アセトアルデヒドと尿素を縮合)、GUP(グアニル尿素リン酸塩)などです。 尿素態やアンモニア態の窒素は土壌中の微生物によって硝酸態に変化してから農作物に吸収されますが、硝酸態窒素は水に溶けやすいので流亡したり、窒素ガスに還元されたりしやすく、また濃度障害を起こしやすい欠点があります。このため、ジシアンジアミドなどの硝化抑制剤を加えて肥効を長持ちさせている商品もあります。

化学肥料の中で原則として肥料三要素のひとつだけを含むものを単肥と言います。窒素肥料(単肥)のうち、N含有量が多いのは尿素(46%)、硝安(34%)です。これに対して、硫安(21%)、石灰窒素(21%)はN含有量が低くなります。石灰窒素は施肥すると水と反応してシアナミドを生成しますが、これは1週間ほどで分解されてアンモニアに変わります。 シアナミドには毒性があるので土中の線虫を除去する効果があり、元肥と農薬の両方の効果が期待できます。ただし播種、植え付けは毒性が消えてからにしなければなりません。 リン酸肥料(単肥)としては、水溶性の過リン酸石灰(P含有量17%)、く溶性(中性の水には溶けにくいが弱酸性の水に溶ける)の溶成リン肥(20%)があります。リン酸肥料は土中で移動しにくいので元肥として施肥します。カリ肥料(単肥)としては、硫加(硫酸カリウム、K含有量50%)、塩加(塩化カリウム、60%)があります。硫加の方が、濃度障害が少なく好まれます。

一方、肥料三要素を複数含むものを複合肥料と言います。複合肥料の中でも単肥を混合しただけのものを配合肥料、特に粒状の単肥を混合したものをBB肥料(粒状配合肥料、バルクブレンディング)と呼びます。一方、三要素を含む原料に化学的処理を加えて造粒した肥料を化成肥料、 そのうちNPK合計量が30%以上のものを高度化成肥料、30%未満のものを普通化成肥料と言います。普通化成肥料の多くは、硫安、過リン酸石灰を使い、さらに副成分として石膏(硫酸カルシウム)が含まれています。高度化成肥料は、NPK成分を多くするために副成分は使いにくく、尿素、リン安(リン酸アンモニウム)を原料とすることが多いので速効性が高くなります。

NPKが同じ量またはPを多くした複合肥料は元肥に向き、NKに比べてPを少なくした複合肥料は追肥に向きます。

化学肥料は、19世紀に海鳥の糞化石であるグアノ(P)、チリ硝石(N)、カリ塩(K)の利用から始まりました。19世紀中ごろに過リン酸石灰が英国で開発され、日本でも明治21年に国産化されました。グアノが難溶性に対して、過リン酸石灰は水溶性のためリン肥料としての効果が大きい特徴があります。 さらに19世紀末には石灰窒素が発明され、これに水蒸気を作用させてアンモニアにし、さらに硫酸に吸収させた変成硫安がつくられました。硫安は使いやすい窒素肥料として普及しました。その後1913年にドイツで空気中の窒素を原料にアンモニアの合成が成功し、合成硫安が普及しました。 これによって人類はチリ硝石枯渇による食糧危機の恐れから脱却できました。20世紀中半から後半は、豊富な化学肥料、農薬、活発な品種改良、農業機械の普及による食糧増産の時代になりました。日本でも高度化成肥料を多用し省力化が図られました。まさに化学肥料の時代でした。

しかし、20世紀終盤になって、化学肥料のみに依存する農業への反省、土作りの重要性が見直されるようになりました。化学肥料多投による土壌の富化や偏り、肥料の河川などへの流出による自然環境への影響(富栄養化)が注目されるようになりました。化学肥料だけに頼るのでなく、 有機質肥料もうまく使うことによって、土壌の物理性、生物性の改善を図ることの重要性が認識されました。たとえば肥料分が少ない落ち葉堆肥(腐葉土)、バーク(樹皮)堆肥や牛糞堆肥でも、土壌の保水性、通気性などの物理性を改良し、また有益微生物を活性化する効果が認められるようになりました。 日本では1984年に地力増進法が制定され、12種類の土壌改良資材について品質表示が義務付けられ、原料や用途(主たる効果)、施用量、施用上の注意が記載されています。この12種類のうちバーク堆肥、腐食酸質資材は肥料取締法の特殊肥料にも該当します。

地力増進法で品質表示が義務付けられた12種類の土壌改良資材

  土壌改良資材 主たる改善効果
1 泥炭 膨軟化、保水性、または保肥力
2 バーク堆肥 膨軟化
3 腐植酸質資材 保肥力
4 木炭 透水性
5 けいそう土焼成粒 透水性
6 ゼオライト 保肥力
7 バーミキュライト 透水性
8 パーライト 保水性
9 ベントナイト 水田の漏水防止
10 VA菌根菌資材 リン酸供給能
11 ポリエチレンイミン系資材 団粒形成
12 ポリビニルアルコール系資材 団粒形成

農作物を作るには、まず土の性質、作土層の状態をよく調べた上で、土作りを心掛けながら化学肥料と有機質肥料の両方をうまく使いこなすことが肝要です。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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