化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第1章 化学製品を理解するための基本

1-5 有機薬品とモノマー

医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。そのうち分子量が1千以下の有機化合物を有機薬品と呼んでいます。有機薬品は用途によって図のように大きく4つに分類できます。ただし、一つの有機化合物がいくつかの用途に使われる場合もあります。

図1

図1

モノマーとは高分子の原料となる有機薬品のことです。有機薬品の中では量的に最も大きな分野です。有機溶剤、界面活性剤は1-6、1-7で説明します。有機中間体とは目的とする有機薬品をつくる中間段階だけで使われる有機薬品です。 染料中間体、医薬品中間体のように種類は多いものの、個々の中間体の生産量、取引量としては小さな商品がある一方で、もっぱらモノマーの原料として使われる二塩化エチレン、エチルベンゼンのように巨大な生産量の商品もあります。

この節では有機薬品のうち、モノマーに焦点を絞って説明します。モノタロウでモノマーを扱うことはほとんどありません。しかし、モノタロウで扱っている高分子製品を理解するためにはモノマーの知識が必要です。

高分子はモノマーが数百、数千、数万、場合によってはさらに多く結合してできます。その際に一種類だけのモノマーでできる場合もあれば、複数の種類のモノマーでできる場合もあります。2つ以上の結合ができる「手」を持つ有機薬品はモノマーとなる可能性があります。 たとえば次に示すエチルアルコールはヒドロキシ基OHという「手」を一つしか持っていないのでモノマーにはなりません。一方エチレングルコーはOH基を2つ持っているのでモノマーになりえます。ペンタエリトリトールは4つの手を持つモノマーになります。

図2

図2

このようにモノマーの構造を微妙に変えることによって、高分子の構造を変え、ひいては性能を変えることが可能です。塗料用樹脂の原料モノマーであるアクリル酸エステル、ウレタン樹脂の原料モノマーであるポリオールは、この典型的な例です。 モノマーを化学構造によって分類すると次の表のようになります。

表1

構造による分類 代表的な製品
二重結合 オレフィン エチレン、プロピレン(基礎化学品)
ジエン ブタジエン、イソプレン(基礎化学品)
ビニル化合物 塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エチル
環状 エチレンオキサイド、カプロラクタム
多官能基 アジピン酸とジアミン、テレフタル酸とジオール、ジイソシアネートとポリオール
その他 フェノールとホルムアルデヒド、置換クロルシランと水、2,6-キシレノールと酸素

二重結合を持つモノマーには、多くのビニル化合物のような有機薬品のほかに、二重結合を1つ持っているオレフィン、2つ持っているジエンのような石油化学基礎製品もあります。二重結合が反応して一重結合になる時に、空いた手が2つ生じるのでモノマーになりえます。 エチレン、プロピレンは、身の回りにありふれたポリエチレン、ポリプロピレンのモノマーです。ブタジエンやイソプレンは合成ゴムをつくるのに不可欠なモノマーです。ビニル化合物には、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル繊維など、おなじみの高分子の原料となるモノマーがたくさん含まれます。 環状の構造を持つモノマーは環が開くと、空いた手が2つできるのでモノマーになりえます。しかし環状のモノマーの製品はごく少数です。図に示したもの以外にはプロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロロヒドリン程度しかありません。 官能基を複数持つ有機薬品は、上記のエチレングリコール、ペンタエリトリトールの例のようにモノマーになります。これにはナイロンやPET樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂など重要な高分子のモノマーが多数含まれます。 化学商品とは関係ありませんが、ヒトをはじめとする生物を構成する重要な高分子(タンパク質、セルロース、デンプン、DNAなど)も、この種のモノマー(アミノ酸、ブドウ糖、デオキシリボ核酸など)から成っています。 アミノ酸は分子内にCOOH基とNH2基を、ブドウ糖は分子内に複数のOH基を、デオキシリボ核酸は分子内にリン酸基と糖のOH基という複数の官能基を持っています。表の「その他」は、ひとつの分子内に複数の反応点や官能基を持つ化合物です。 フェノール樹脂、シリコーン、PPE(ポリフェニレンエーテル)など少数の高分子の原料モノマーが該当します。

モノマーは高分子をつくる重要な原料ですが、一方で高分子製品にモノマーが微量でもそのまま残って溶出するようなことは避けなければなりません。特に食品容器に使用されるプラスチックについては食品衛生法によって溶出モノマー量が厳しく規制されています。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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