化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第4章 高分子製品を理解するための基本

4-1 高分子製品の構成

高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からで、 他の材料に比べると非常に新しい材料です。この章では高分子製品を理解するための基本知識を紹介します。

高分子製品の中核は高分子材料です。高分子とは、一般に分子量が1万以上の物質です。第3章で述べた化学製品においても、塗料、接着剤、印刷用化学品には高分子が使われています。一方、農薬、化学肥料、洗剤、染料、顔料、殺菌剤、香料などの化学製品には分子量がおおむね1千以下の低分子が使われています。

高分子は繰り返し単位から成り立っています。この繰り返し単位となる原料の低分子をモノマーと呼んでいます。「モノ」とはひとつと言う意味です。モノマーには分子量が1千以下の低分子が使われます。これに対して高分子はモノマーが多数(ポリ)集まった物質という意味でポリマーと呼ぶこともあります。

たとえば、天然高分子のデンプンやセルロースはブドウ糖の繰り返し単位から成り立っており、タンパク質はアミノ酸の繰り返し単位から成り立っています。

ヒトは、消化酵素によって高分子のデンプンやタンパク質を加水分解して低分子のブドウ糖やアミノ酸にしてから吸収します。ヒトは高分子のセルロースを消化する酵素を持っていないので、セルロースを吸収できず、栄養素にすることはできません。しかし、セルロースは食物繊維として重要性が見直されています。 吸収したブドウ糖やアミノ酸は、一部はさらに分解されてエネルギー源になり、また一部はヒトに必要なタンパク質や高分子の糖をつくり上げる原料となります。 このようにモノマーから高分子をつくる反応を重合と言います。人工の高分子も、まったく同じようにモノマーを重合してつくられます。単一の種類のモノマーだけを重合することも、異なる種類のモノマー同士を重合することもあります。こうして様々な種類の高分子をつくることができます。

注意しなければならない高分子の特徴のひとつとして、同じ種類の高分子であっても、分子量や分子構造が様々に異なる物質の混合物であることが多いことです。低分子の場合には、分子量や分子構造がほぼ完全に同一の分子から成るように精製されます。低分子では分子量が異なれば、もちろん別の物質です。 また分子式と分子量が同じであっても、分子構造が異なれば別の物質になります。 たとえば分子式C2H6Oという物質(分子量46)は、C2H5OHという分子構造ならエチルアルコールとして沸点76℃の物質です。おなじみのお酒の主成分のアルコールです。しかしCH3OCH3という分子構造では、沸点がマイナス24℃の常温ではガス状の物質ジメチルエーテルです。エチルアルコールとは、沸点以外の性質でも大きく異なります。

ところで分子量100のモノマーを約100個重合しておおむね分子量1万の高分子をつくっても、すべての分子の分子量が10,000であることはほとんどなく、分子量9,500や10,100など様々な分子量の分子の混合物になっています。さらに分子の枝分かれなど、分子構造が異なる分子の混合物である場合もあります。 したがって高分子では平均分子量ばかりでなく、分子量分布や分子構造分布の違いまで考慮しないと、同じ物性の材料が得られません。この点は、低分子物質と大きな違いです。

次に高分子製品は、中核となる高分子材料だけから成るわけでないことにも注意が必要です。高分子製品として期待される性能(強度、弾性、柔軟性、耐熱性、耐候性など)を発揮させるために高分子材料に様々な薬品や他の素材(粉状の無機物質やガラス繊維、炭素繊維など)が加えられます。

高分子製品
高分子材料 低分子薬品、他の材料

見た目には透明なフィルムであっても、透明な高分子材料だけからなることは少なく、耐候性を持たせるために通常は酸化防止剤、紫外線吸収剤などが加えられています。このように高分子材料に様々な薬品、材料を混合させた中間製品をコンパウンドと呼びます。高分子製品は、コンパウンドを成形加工した製品です。

ゴム製品の代表であるタイヤは、その骨格部分(カーカス)に強度が必要なためにナイロン繊維、ポリエステル繊維、スチール線などのコードとゴムから成り立っています。 プラスチック製品でも、航空機本体や翼、漁船本体、浴槽などの大型成形加工品ではガラス繊維や炭素繊維とプラスチックの複合材料から成っています。このような繊維で強化したプラスチックをFRPと呼んでいます。

高分子製品の多くは固形状で販売され、使用されますが、塗料用や接着剤用の高分子製品では乳濁状のエマルションや溶剤・水に高分子を溶解させた溶液として使われることもあります。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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