化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第1章 化学製品を理解するための基本

1-4 無機薬品の特徴と種類

人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。一方、地球上の地表付近に存在する元素の割合のベスト10は、酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、水素、チタンの順になります。

私たちの身の回りの化学製品は、大きく分けて有機物と無機物に分けられます。有機物は分子内に炭素を含む化合物です。ただし、炭素そのもの(グラファイト、ダイヤモンドなど)、二酸化炭素、一酸化炭素、炭酸塩は有機物に含めません。無機物は有機物以外のすべての物質です。

そうすると、圧倒的に無機物の種類が多いと思われるかも知れません。ところが意外なことに化学製品の種類においては有機物が圧倒的に多く利用されています。 確かに鉄、アルミニウム、銅、シリコンをはじめとする金属、またセメント、ガラス、陶磁器などの窯業製品は無機物で、消費量も非常に大きなものです。その製造工程も化学反応を利用しています。しかし、これらの多くは近代化学工業が発生する以前から生産されており、一般には化学製品とは考えられていません。 一方、化学製品に属すると考えられる無機物としては、産業ガス(酸素、窒素、アンモニア、アルゴン、二酸化炭素、シランなど)、 無機酸・無機アルカリ(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、水酸化ナトリウム、生石灰、消石灰など)、化学肥料(尿素、硫安、塩化カリウム、過リン酸石灰など)、無機薬品などがあります。 このうち無機薬品には多くの種類の製品がありますが、それでも有機物の種類の多さにはかないません。

この原因は何でしょうか。それは、炭素という元素が4つの結合する手を持ち、しかも炭素同士がたくさん手をつなぐことができるためです。炭素が1千以上つながった高分子も当たり前に使われています。さらに炭素は、酸素、窒素、水素その他多くの元素と様々な結合をすることができます。 炭素と金属が直接結合した化学製品(有機金属化合物)もつくられ、活用されています。炭素以外の元素ではこのような多数の結合や多彩な結合をつくることができません。たとえば酸素は2つの原子が結合する形(空気中の酸素分子)が最も安定しています。3つの原子が結合しているオゾンが存在しますが不安定です。 酸素が4つ以上結合している物質は存在しません。

この基礎講座では、化学肥料以外はもっぱら有機物について述べることになるので、この節では無機物の中でも種類の多い無機薬品を説明しておきます。ただし、無機薬品は、使われる元素の種類が多く、その性能、製造法、用途も雑多と言えるほど多彩で体系立っていません。 日本無機薬品協会、カーボンブラック協会がまとめた日本での無機薬品を生産量の多い順に並べると表のようになります。

図1 日本での生産量の多い無機薬品

製品群名 2015年度生産量(千t) 主要用途
アルミ化合物 1,000 紙パルプ、水処理
カーボンブラック 578 ゴム、合成樹脂、印刷インキ
活性炭 77 水処理、ガス吸着処理
ケイ酸ナトリウム 379 紙パルプ、土木建設
過酸化水素 177 紙パルプ、工業薬品
酸化チタン 174 塗料、印刷インキ、合成樹脂
フッ素化合物 273 フルオロカーボン、金属表面処理
酸化第二鉄 70 フェライト、塗料、印刷インキ
リン、リン化合物 65 金属表面処理、可塑剤、難燃剤
酸化亜鉛 55 ゴム、塗料

出典)化学経済 2016年8月増刊号「化学工業白書」より

この表のうち、アルミ化合物は硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ミョウバン類などポリ化アルミニウム以外のアルミ化合物の合計です。またフッ素化合物もフッ酸、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウムなどの合計、リン・リン化合物も赤燐、リン酸、3塩化リン、トリポリリン酸ナトリウムなどの合計です。 したがって単独の製品としてはポリ塩化アルミニウムやカーボンブラックの50万トンクラスが最高です。 日本での生産量が100万トン以上になるポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレンなどの汎用プラスチックに比べて意外と少ないことに驚きます。しかし、無機薬品は表に掲げた以外にも非常に多くの製品があります。

主要な用途としては次に掲げる6つがあります。

図2 無機薬品の主要な6用途

主要5用途 詳細内訳 具体例
合成樹脂製品・ゴム製品・
合成繊維の添加剤
顔料 白色(亜鉛華、二酸化チタン)、赤色(酸化鉄)
補強材 カーボンブラック、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン
安定剤 金属石けん(ステアリン酸亜鉛、同バリウム、同鉛)
滑剤 金属石けん(ステアリン酸亜鉛、同カルシウム)
難燃剤 リン系(TCP、TEP)、臭素系(TBBA)、三酸化アンチモン
塗料・印刷インキ・トナー 顔料 黒色(カーボンブラック)
紙パルプ薬品 パルプ用 亜硫酸ソーダ、過酸化水素
製紙用 アルミ化合物、ケイ酸ナトリウム
水処理薬品 ボイラ用水管理 清缶剤(リン酸塩)、脱酸素剤(ヒドラジン)
冷却水管理 分散剤(アミノトリメチレンホスホン酸)、スライム洗浄剤
排水処理 凝集剤(アルミニウム化合物)、重金属捕集剤(硫化鉄)
上水処理 吸着剤(活性炭)
電子情報材料 磁気材料 フェライト
化合物半導体 LED(窒化ガリウム、アルミニウムガリウムひ素)
電池材料 二酸化マンガン、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム
コンデンサー材料 セラミックコンデンサー(酸化チタン、チタン酸バリウム)

無機薬品にはこの6つの主要な用途以外にも次のように多彩な用途があります。これらは、ひとつひとつの使用量は小さくても、なくてはならない用途です。化学製品の性能・耐久性などを考える際には、少量でも添加されている無機薬品を考慮から外すわけにはいきません。

図3 無機薬品の主要5用途以外の用途例

用途 具体例
農薬製剤・医薬品製剤 賦形剤(タルク、亜硫酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)
食品添加物 漂白剤(亜塩素酸ナトリウム)、凝固剤(硫酸マグネシウム)、
膨張剤(炭酸水素ナトリウム)、発色剤(亜硝酸ナトリウム)、
かんすい(炭酸カリウム)
化粧品原料 仕上化粧品のための顔料、白粉やファンデーション原料の粉剤、
染毛時に使う脱色剤・アルカリ剤、パーマ剤としての還元剤・酸化剤、
サンスクリーンのための紫外線散乱剤
洗剤 水を軟化させるビルダー(ゼオライト)、
洗浄効果を強めるアルカリ剤(ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ)
メッキ用薬品 クロム塩類、ニッケル塩類、銅塩類
特殊ガラス材料 酸化鉛、バリウム塩類、ホウ酸
触媒と触媒担体 触媒担体としては、古くからの活性炭、シリカ・アルミナ、
シリカゲルに加えてゼオライト
金属表面処理 リン酸、酸性フッ化アンモニウム
工業薬品 酸化剤(過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ)、
還元剤(重亜硫酸塩、チオ硫酸塩)
X線造影剤 バリウム塩類
写真感光材料 臭化銀、チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)
コンクリート用薬品 凝結・硬化促進剤(塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム)、
急結・急硬剤(カルシムアルミネート)、
防錆剤(亜硝酸リチウム)、
ひび割れ防止膨張剤(カルシウムサルフォアルミネート)
土壌硬化剤 水ガラス
執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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