化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第1章 化学製品を理解するための基本

1-2 化学物質の名前

化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。実は、化学者も、化学物質の名前には昔から悩んできました。化学物質の名前には、図のように、おおむね3種類あります。

図1

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商標名、商品名は、製造または販売している企業が付けた名前です。したがって、この名前は、製造または販売する企業の数だけあると言えましょう。ナイロンは、世界で最初にナイロンという高分子を工業化したアメリカのデュポン社の商標名でした。 しかし、この呼び方が広く使われるようになったために、現在ではナイロンは次に述べる慣用名になっています。

図2

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IUPAC名は、化学物質の化学構造に基づいて、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が定めた命名法によって、一つの化学物質に一つの名前が対応するように付けられた名前です。IUPACとは、世界各国の化学会が参加する国際的な組織です。 理化学研究所・森田浩介さんの研究チームが合成・発見した第113番元素の名称としてニホニウム、元素記号としてNhが候補になると2016年6月8日に発表した国際組織がIUPACです。IUPACは色々な仕事をしていますが、化学物質の統一的な命名法を策定することはIUPACの大きな仕事です。 上記のバラの香りの主成分は、IUPAC名では2-フェニルエタン-1-オールとなります。逆にIUPAC名から一義的に化学物質の構造式を描くことができます。エチルアルコール、酢酸、エチレンのIUPAC名は、それぞれエタノール、エタン酸、エテンです。 しかし、IUPAC名は、一般に長々とした名前になり、しかも官能基の位置を表す数字などが多数付くので冗長です。 エチレンとか、酢酸のような簡単な化学物質の慣用名が定着している場合にはIUPAC名はほとんど使われません。一方、エタノール、エチルアルコールは、両方が混乱して使われています。 医薬品、農薬のような複雑な構造の化学物質の場合には、IUPAC名は非常に長い名前になってしまうため、ほとんど慣用名・一般名が商取引には使われています。

たとえば、農薬の場合には農薬取締法による有効成分の登録名が多く使われますが、他の法令では別の名前が使われ、これが慣用名としてよく使われることもあります。 住友化学の有名な殺虫剤スミチオン(商標名)は、農林水産省への登録による慣用名がMEPなのでモノタロウの成分表記としては、これが使われています。一方、食品衛生法で採用されている慣用名はフェニトロチオンです。 これもよく使われる慣用名なので混乱します。IUPAC名は、O,O-ジメチル O-4-ニトロ-m-トルイル ホスホロチオエートとなります。次の化学構造式と比較して、IUPAC名のつくられ方を考えてみてください。ポイントは赤枠で囲んだ部分で、IUPAC命名法の骨格となっている「ホスホロチオエート」です。

図3

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執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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