切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第2章 ドリル

2-2 ドリルのねじれ角

図に、ねじれ角の強弱と特徴を示します。「ねじれ角」とは、切れ刃の傾き角のことで、ドリルの軸を0°として考えます。 標準的なドリルのねじれ角は20°~30°で、一般に、20°より小さいねじれ角のものを「弱ねじれ」、30°より大きいねじれ角のものを「強ねじれ」といいます。 ねじれ角が大きい(強ねじれになる)ほど、切れ刃が鋭利になり切れ味が良くなるため切削抵抗(切削トルク)が小さくなります。ただし、切れ刃の強度は低くなるため、チッピングや欠けが生じやすくなります。 一方、ねじれ角が小さい(弱ねじれになる)ほど、切れ刃は鈍くになり切れ味が悪くなるため切削抵抗(トルク:回転方向の抵抗力)が大きくなります。 ただし、切れ刃の強度は高くなるため、チッピングや欠けが生じにくくなります。 このため、アルミニウム合金や銅合金など比較的軟らかい材料には「強ねじれ」のドリルを、鉄鋼やステンレス鋼など比較的硬い材料には「弱ねじれ」のドリルを選択するのがよいでしょう。

次に、ねじれ角を切りくずの排出性と切削油剤の供給の観点から解説します。 ドリルによる穴加工では切りくずは溝のねじれに沿って、穴の中から外へ排出されます。一方、切削油剤を供給し、ドリルの刃先に浸透させたい場合には、切削油剤はドリルの溝に沿って穴の外から中へ浸透するため、 切りくずが排出される方向と切削油剤が浸透する方向が対向することになります。つまり、切削油剤はドリルの先端に供給されにくいということになります。

この原理に沿って考えると、ねじれ角が0°の直刃ドリルでは、溝がねじれていない(らせん形状でない)ため、切りくずの排出性は悪くなりますが、 切削油剤はドリルの刃先に切削油剤が浸透しやすくなります。直刃ドリルは切りくずの排出性が悪いため深い穴加工には不向きですが、 比較的浅い穴加工や切りくずが排出されやすい横穴の加工では有効なドリルといえます。また、直刃ドリルはねじれ角が0°であるため、切れ味は劣りますが、 刃先の強度は高くなるため、欠けやチッピングを抑制することができ、曲げ方向の力に対して強いので斜面への穴加工や鋳物など硬い材料への穴加工などに適しています。

なお、ねじれ角が大きいほど溝の体積が増えるためドリルの剛性は低くなります。このため、小径のドリルになるほど剛性を高くするため、ねじれ角の小さいものを選ぶとよいでしょう。

ドリルのねじれ角
  • ねじれ角弱
  • ねじれ角弱
  • ねじれ角が20°以下のドリル。ドリルの剛性が高いので硬い材料に有効です。切りくずの排出性が良くないため、深加工には不適です。
  • ねじれ角標準
  • ねじれ角標準
  • ねじれ角が20°~30°のドリル。一般的なドリルで汎用性に優れています。

  • ねじれ角強
  • ねじれ角強
  • ねじれ角が30°以上のドリル。切りくずの排出性が良く、深い穴加工に適しています。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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