切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第1章 切削工具の基礎講座

1-7 サーメットの特徴

切削工具材質の一つにサーメットがあります。サーメットは超硬合金の代替として開発された背景があり、サーメット(cermet)という名称はセラミック(ceramic)にように硬く、メタル(metal)のように粘り強いという意味を込めて、それぞれの言葉を組み合わせて名付けられたと言われています。

サーメットと超硬合金の使い分けに困られている方も多いと思いますが、サーメットと超硬合金の最大の違いは主成分です。サーメットの主成分はチタンやタンタルで、超硬合金の主成分はタングステンです。 タングステンは鉄との親和性が高く、合金化しやすい性質を持つため、超硬合金製の切削工具で鉄鋼材料を切削すると、切削工具の刃先に切削熱によって溶解した工作物の一部が溶着する現象が発生します。 切削工具の刃先に溶着が発生すると、仕上げ面がきれいにならないなど、良好な切削が行えません。一方、チタンやタンタルは指輪や腕時計などにも使用される生体材料で、優れた耐食性を有し、とくに鉄との親和性が低いです。 このため、サーメット製の切削工具で鉄鋼材料を切削しても、超硬合金製の切削工具のように溶着が発生しにくく、仕上げ面もきれいに加工することができます。 旋盤加工で端面切削を行った場合に、中心付近が白濁することがありますが、サーメットではこのような現象が発生しにくくなります。鉄鋼材料の仕上げ加工にはサーメットを使用するとよいでしょう。

ただし、サーメットにも欠点があります。サーメットは主成分であるチタンやタンタルを接着剤で固めた構造で、チタンやタンタルは化学的安定性が高く、接着剤とも結合しにくいため、衝撃に弱く、欠けやすいです。 このため、フライス加工のように断続切削で、衝撃が加わる加工ではサーメットは不向きです。また、チタン、タンタルは熱伝導率が低く、熱容量も小さいため、切削工具の刃先に熱が溜まりやすく、フライス加工で水溶性の切削油を供給すると、 切削時と空転時の熱の高低差によって、刃先に熱亀裂(クラック、欠け)が発生することがあります。 したがって、サーメットを使用する際には、衝撃を小さく、水溶性の切削油を使用しないことを覚えておくとよいでしょう。なお、一部のサーメットには熱伝導率を高めるため、熱伝導率が高いタングステンを微量添加しているものもあります。

サーメットの切削工具

サーメットの切削工具

サーメットは白濁しにくい

サーメットは白濁しにくい

切削油剤を供給したフライス加工

切削油剤を供給したフライス加工

切削時間と空転時間

切削時間と空転時間

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

目次をもっと見る