切削工具の基礎講座
5-1 研磨材とは?
材料の表面を磨くときに使用する粒子を「研磨材」といいます。また、粒子を含有した油や水、溶液、ペースト状のものも含めて「研磨材」といわれることもあります。日常生活では、洗面台や風呂場、台所などの水垢を落とすために使用するクリーナには研磨材が入っているものも多く、研磨材で水垢を削り取っています。 ただし、研磨材が洗面台や風呂場、台所よりも硬ければ、水垢だけでなく、洗面台や風呂場、台所まで削り取ってしまう(傷が付く)ことになるので注意が必要です。
材料を磨くことは古代から行われており、磨きの技術は加工技術の中でもっとも古く、ものづくりの原点といます。古代では天然石を粉砕し、研磨材として使用されてきました。現在でも、プロの料理人が包丁を石で研いでいるのをテレビで見ることがあります。 しかし、天然石は高価なため、現在では研磨材として天然石が使用されることは少なく、人工の研磨材が主流になっています。 研磨材の種類はダイヤモンド、CBN、炭化けい素、アルミナ、ジルコニア、酸化セリウム、シリカなどがあり、この中で一般に多用されているのは炭化けい素とアルミナです。 炭化けい素はアルミニウム合金や黄銅、ガラスなどの非鉄金属の磨きに適し、アルミナは鉄鋼材料やステンレス鋼などの金属材料の磨きに適しています。
研磨材の粒子の大きさは「粒度、番手」という指標で表現され、#を使って表記されます。粒度(番手)は粒子の大きさを直接表した値ではなく、粒子を選別したときに使用される「ふるい」の網目の大きさを表しています。 たとえば、#80の粒子は1インチ×1インチの四角形の縦辺と横辺をそれぞれ80等分した網目のふるいで選別した大きさという意味になります。 1インチは25.4mmですので、□25.4mmの縦横を80等分すると、1つの網の目の大きさは約□0.3mmになります。そして、網の線の太さや粒子が完全な球体ではないため、#80の粒子の平均的な粒径はふるい目よりも少し小さい0.2mm程度になります。
なお、結合材(ボンド材)を付けた紙の上に研磨材を撒いたものを「紙やすり(サンドペーパ)」、研磨材を結合材と混合し、焼き固めたものを「研削といし」といいます。 紙やすりは日曜大工や工作でも多用され、研削といしは歯医者で虫歯を削るときにも使用されています。ナイフなどを磨く際に使用する油砥石(オイルストーン)は研削といしの一種です。油砥石という名称ですが、水をかけて使用しても問題ありません。
ふるい
粒度と作業目安
『切削工具の基礎講座』の目次
第1章 切削工具とは?
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1-1切削工具(木材や金属を削るための刃物)古代より人間は道具を作り、道具を使い、いろいろな「もの」をつくりながら進化してきました。
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1-2切削工具の材質切削工具は削る材料(木材や金属)よりも3~4倍程度の硬さが必要だといわれています。
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1-3超硬合金チップの使い分け切削工具用の超硬合金チップはP、M、K、N、S、Hの6種類があり、削る材料の材質によって使い分ける必要があります。
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1-4切削工具の切れ味の評価私たちが日常的に使用する包丁やカッター、ナイフなどの刃物の切れ味は、「刃先の鋭さ」によって評価されます。 たとえば、刃先が摩耗した(丸まった)包丁でトマトを切ると、トマトがうまく切れずにつぶれてしまいますが、刃先が鋭く尖った包丁でトマトを切ると、きれいに切れます。このように、刃先の鋭さが切れ味の評価基準になり、鋭いほど切れ味が良いという評価になります。
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1-5刃先交換式切削工具の呼称近年、刃先をねじなどの機械的な締結方法で簡便に刃(チップ)を交換できる刃先交換式の切削工具が多く使用されるようになってきました。金属加工で使用する切削工具だけではなく、日常的に使用する刃物は使用期間が長くなると、刃先が摩耗します。
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1-6高速度工具鋼の特徴金属加工で使用する切削工具の材質には超硬合金をはじめ数種類ありますが、その一つに「高速度工具鋼」があります。高速度工具鋼は英訳すると「ハイ・スピード・スチール(High Speed Steel)」になるため、一般に、「ハイ・スピード」を略して「ハイス」と呼ばれています。
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1-7サーメットの特徴切削工具材質の一つにサーメットがあります。サーメットは超硬合金の代替として開発された背景があり、サーメット(cermet)という名称はセラミック(ceramic)にように硬く、メタル(metal)のように粘り強いという意味を込めて、それぞれの言葉を組み合わせて名付けられたと言われています。
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1-8CBNCBNはCubic Boron Nitride(キュービック・ボロン・ナイトライド)の頭文字を表しており、結晶構造が立方晶で、ホウ素(Boron)と窒素(Nitride)が共有結合した固体です。
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1-9ダイヤモンドダイヤモンドは天然に存在する物質の中で最も硬く、熱伝導率が高いことが特徴です。熱伝導率が高いことは切削点で発生する熱を切れ刃に溜めることなく放出しやすいという点で切削工具に必要な性質です。
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1-10コーティング切削工具コーティング切削工具は高速度工具鋼や超硬合金、サーメットなどを母材として、母材の表面を薄膜で覆った(コーティングした)切削工具です。
第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工
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2-1ドリルとは?ドリルは穴をあけるための切削工具です。ドリルは「ツイストドリル」と呼ばれることもあります。
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2-2ドリルのねじれ角図に、ねじれ角の強弱と特徴を示します。「ねじれ角」とは、切れ刃の傾き角のことで、ドリルの軸を0°として考えます。
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2-3ドリルの先端角図に示すように、切れ刃を左右対称にしてドリルを横から見たとき、ドリルの先端の角度を「先端角」といいます。一般に多く使用されているドリルの先端角は118°ですが、近年では用途に合わせて色々な先端角のドリルが市販されています。
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2-4薄板用ドリルの特徴薄板用ドリルは薄い板に穴をあけるためのドリルです。薄板とは「何mmから薄板か?」ということが疑問になると思いますが、ドリル加工では「板厚がドリルの直径よりも薄い場合」を薄板ということが多いです。
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2-5色々な用途のドリル図に色々なドリルを示します。フラットドリルは先端角が180°(平坦な)のドリルで、傾斜面への穴加工や交差する穴をあけるときに使用すると便利なドリルです。
第3章 旋盤用の切削工具
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3-1バイトとは?旋盤で使用する切削工具を「バイト」といいます。バイトの形状は持ち手になる柄の部分と材料を削り取る刃部に大別され、大工さんなど木工加工で使用される鑿(ノミ)に似ています。 金属を削る技術はメソポタミア地方(現在の中東地域)で誕生し、その後、ヨーロッパやアジアに広がり、紀元前200年頃(弥生時代初期)、中国、朝鮮を経由して日本に伝わったといわれています。
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3-2チップの各部の名称バイトの構造は「材料を削る刃部」と「刃部を固定する柄の部分」の2つに大別されます。刃部を「チップ」、柄の部分を「シャンク」といいます。そして、チップを取り付ける座の部分とシャンクを合わせて、「ボデー(Body)」といいます。ボデーは胴体の意味です。
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3-3バイトの構造(チップとボデーの結合方法の種類)バイトはチップがボデーの先端に結合された構造をしており、チップとボデーの結合方法にはいくつかの種類があります。
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3-4バイトとスローアウェイチップの勝手手動でハンドルを操作する汎用旋盤では、通常、工作物を正回転(心押し台から主軸を見たときに反時計回転)にして、バイトを右から左に動かして材料を削ります。このように、工作物を正回転にし、バイトを右から左に動かして工作物を削る際に使用するバイトを「右勝手のバイト」といいます。
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3-5バイトの形状と大きさ金属を自由な形状に削る場合には2つの方法があり、1つは「削る形状に合わせたチップ(バイト)を材料に転写させる方法」ともう一つは「バイトを削る形状に合わせて動かす方法」です。一般に、ハンドルで操作する汎用工作機械では前者が選択され、コンピュータで操作するNC工作機械の場合には後者が選択されます。
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3-6チップブレーカとチップポケット切りくずを分断するためにチップのすくい面に付けられた溝や突起のことを「チップブレーカ」といいます。
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3-7チップブレーカの種類(溝形と突起形)チップブレーカはすくい面に溝を付けただけの「溝形」とすくい面に複雑な凹凸の模様を付けた「突起形」の2種類に大別されます。
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3-8ローレット丸棒の円周上に規則正しい凹凸を付けた模様を「ローレット目」といいます。ローレット目は主として平目とアヤ目の2種類があり、平目は1方向の線状模様で、アヤ目は2方向の線が交差する模様です。
第4章 フライス加工用の切削工具
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4-1フライス工具と旋盤工具(バイト)に求められる性能の違いフライス加工は回転する切削工具を材料に押し当て、余分な場所を削り取り、所要の形状をつくる加工法です。
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4-2正面フライスについてフライス盤やマシニングセンタで広い平面を削りたいときに使用する切削工具を「正面フライスまたはフェイスミル(Face mill)といいます。
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4-3エンドミルについてエンドミルはフライス加工で使用する切削工具で、動かす方向をコントロールすることによって多様な形状をつくることができ、大変便利な切削工具です。
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4-4エンドミルの種類エンドミルは用途や目的に応じて多様なものがあります。
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4-5エンドミルのねじれ角エンドミルのねじれ角は軸方向を基準として、外周刃が傾く角度です。つまり、軸を0°として角度を考えます。通常使用されるエンドミルのねじれ角は30°程度です。
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4-6エンドミルの構造と材質エンドミルの構造は刃部とシャンクが一体で、1本の円筒丸棒からつくられた構造の「ソリッドタイプ(むくタイプ)」と、ねじなどの機械的な締結方法でチップをボデーに締め付ける構造の「スローアウェイタイプ(クランプタイプ)」の2種類に大別されます。
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4-7コーナの強度を高めたエンドミル通常のスクエアエンドミルは外周刃と底刃が交わる部分(コーナ)が鋭く尖っています。
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4-8エンドミルの仕様とたわみの関係エンドミルはミーリングチャックでエンドミルのシャンクを保持する片持ち支持であるため、突き出し長さL(保持部からの長さ)が長くなるほどたわみやすくなります。
第5章 研削砥石
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5-1研磨材とは?材料の表面を磨くときに使用する粒子を「研磨材」といいます。
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5-2研削といしの3要素「といし」は「回転させて使うもの」と「回転させないで使うもの」があり、研削加工のように、回転させて使う「といし」を「研削といし」といいます。
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5-3研削といしの5因子5-2で解説したように、「研削といし」は「と粒」、「結合剤」、「気孔」で構成されており、これらを「研削といし」の3要素といいます。
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5-4と粒の種類「と粒」はサラサラの砂状で、これを結合剤に混ぜ、型に入れて焼き固めると「研削といし」になります。表に、JIS(日本工業規格)に規定されている「と粒」の種類を示します。
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5-5粒度と組織(と粒率)の関係粒度は「と粒」の大きさを表す指標で、粒度の数値が大きいほど「と粒」は小さくなり、粒度の数値が小さいほど「と粒」は大きくなります。
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5-6研削といしのバランス調整削といしはフランジと呼ばれる治具に取り付けた後、研削盤の主軸に装着します。研削といしをフランジに取り付けた後、必ず行なければならないのがバランスの調整です。
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5-7普通研削といしの形直しと目直し(ツルーイングとドレッシング)バランス調整を行ったフランジ付き研削といしは研削盤のといし軸に取り付けた後、すぐに使用できるわけではありません。研削加工を行う前に、「形直し・目直し」を行う必要があります。形直しはツルーイング、目直しはドレッシングと言われることもあります。
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5-8普通砥石と超砥粒ホイールの違い図に示すように、台金の周辺に砥粒層を持つ研削といしを「ホイール」と言います。一般的な研削といしは全体が「と粒」でできていますが、ホイールは円周の外周部分だけに薄い砥粒層があります。台金の材質は通常アルミニウム合金か陶器です。
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5-9研削といしの保管と取り扱い、使用前の品質検査研削といしは立てた状態で保管します。研削といしは外周方向から掛かる力には非常に強いですが、側面からの力には非常に弱いです。そのため、平積みをしては絶対にいけません。
第6章 特徴的な切削工具
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6-1切削タップタップはドリルであけた穴に通して、「めねじ」を加工するための切削工具です。タップは切りくずが詰まりやすく折れやすいため、タップ加工は様々な加工工程の中でトラブルの多い加工です。
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6-2盛上げタップ(非切削タップ)タップには切りくずを排出してねじ形状を加工する切削タップと切りくずを排出しないで(工作物を塑性変形させることにより)ねじ形状を加工する非切削タップの2種類があり、非切削タップを盛上げタップといいます。
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6-3センタ穴ドリルセンタ穴ドリルは本来、旋盤加工や円筒研削加工などセンタを使用して材料を支持する際、センタの先端を沈めるために円形材料の側面(端面)の軸中心に小さな穴をあけるための切削工具です。
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6-4リーマドリルであけた穴は一見真円のように見えますが、厳密に測定すると形状は歪み、穴の内径寸法はドリルの外径より大きくなっています。
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6-5ねじ切りダイス丸棒を「ねじ」に加工する切削工具を「ねじ切りダイス」といいます.一般には略して「ダイス」と呼ばれています。
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6-6サイドカッタとメタルソーサイドカッタとメタルソーは見分け方や使い分けに迷う切削工具です.サイドカッタは外周面と両側面に切れ刃を持つ切削工具で,側(がわ)フライスとも言われます。