切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第3章 旋盤用の切削工具

3-8 ローレット

丸棒の円周上に規則正しい凹凸を付けた模様を「ローレット目」といいます。ローレット目は主として平目とアヤ目の2種類があり、平目は1方向の線状模様で、アヤ目は2方向の線が交差する模様です。ローレット目は滑り止めや美観向上などを目的として材料表面に施され、ダイヤルやねじの摘みなど日常生活でもよく見かける模様です。

ローレット目をつくる切削工具を「ローレット」といい、ローレットを使用した加工をローレット加工といいます。ローレットには回転する駒が付いており、駒の目を回転する材料に押し付けることによって材料表面に凹凸を施します。

ローレットはフランス語でギザギザを意味する「ルーレット(roulette)」が語源です。一方、英語ではギザギザを「ナーリング(Knurling)」というため、米国をはじめ英語圏ではナーリングと言っています。ローレットとナーリングは同じものです。

日常生活の中に隠れたローレット加工とローレット目の種類

ローレットは「切りくずを排出せず刃部の形状を転写させる転造式」と「切りくずを排出しながら形状をつくる切削式」の2種類に分かれます。

転造式のローレットは目の模様を転写させるだけの単純な作業ですが、安定した加工を行うためには一定のスキルが必要で、生産現場では様々なトラブルが生じることが多い加工です。とくに大きな抵抗が作用するので工作機械への負担が大きく、塑性変形によって工作物の盛り上がりも大きくなります。

一方、切削式のローレットは切りくずを排出する削りのため、抵抗が抑制され、工作機械への負担は小さく、工作物の盛り上がりはほとんど生じません。したがって、薄肉や長物、細物、軟らかい材料(樹脂など)に加工に適しています。ただし、一般に仕上がり具合は切削式よりも転造式の方がきれいです。

転造式と切削式のローレット

切削式と転造式の概念図

ローレット目の大きさは主として「モジュール」で表現されます。モジュールは山の1周期:ピッチ(t)を円周率(3。14)で割った値です。言い換えると、モジュール0。3のローレット目のピッチ(t)は0。3×3。14=0。942となるため約1mmになります。モジュールの考え方は歯車と同じです。歯車の歯をローレットの山と考えればよいでしょう。

なお、ローレット目の大きさは1インチ(25。4mm)あたりの山の数で表現されることもあり、この場合には25。4mmを山の数で割った値がピッチ(t)になります。つまり、山の数が26の場合では25。4mmを26で割り、ピッチ(t)は0。98mm、約1mmになります。

ローレット目の大きさ(モジュール)

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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