切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第5章 研削砥石

5-2 研削といしの3要素

「といし」は「回転させて使うもの」と「回転させないで使うもの」があり、研削加工のように、回転させて使う「といし」を「研削といし」といいます。一方、回転させないで使うものには「手とぎといし(スティックといし)」があります。研削といしはグラインダーなどで使用し、手研ぎといしは包丁を研ぐときなどに使います。

砥石は漢字で表記されることが多いですが、JIS R 6004では、漢字ではなく、「ひらがな」で定義しています。したがって、正式には「といし」と書くのが正解です。

研削といしの拡大写真を見るとわかるように、研削といしは「小さな石」の集合体で、石と石の間には空洞があります。このように、研削といしは一見すると、「小さな石」と「空洞」の構造になっていますが、もう一つ目には見えないものがあります。 それは、石と石を結びつけるための「接着剤」です。つまり、研削といしは「小さな石」、「空洞」、「接着剤」の3つで構成されています。 このような構造は私たちの身近なものでも見ることがき、東京浅草の名物の「雷おこし」がこれに該当します。図に示すように、「雷おこし」は「米」、「空洞」、「水あめ」で構成されており、研削といしと同じ構造をしています。研削といしの構造は「雷おこし」と覚えればよいでしょう。

さて、研削加工は研削といしで工作物を削っていますが、加工点(研削といしと工作物が接触している点)を拡大すると、一つ一つの石が工作物を削る「刃」の役割をしています。一つ一つの石を「と粒」といいます。 一般に、「砥粒」と表記されることが多いですが、JIS R 6004では、「といし」と同様に、「と粒」と「ひらがな」で定義しています。

「と粒」を集めて、「研削といし」のように丸い形状をつくるためには、と粒とと粒を接着剤で固めなければいけません。この接着剤のことを「結合剤」といいます。「と粒」を固めている「結合剤の強さ」は「研削といしの硬さ」に置き換えることができます。 つまり、結合剤が強いほど硬い「研削といし」ということになります。

そして、「と粒」と「と粒」の間には「空洞」が生じます。この「空洞」は「と粒」が工作物を削ったときに発生する「切りくず」を排出する役割や「研削といし」の温度を冷やす役割があり、研削加工にとって非常に重要な働きをします。 この空洞のことを、「気孔(きこう)」といいます。

このように、「研削といし」は「と粒」、「結合剤」、「気孔」の3つから構成され、これらを「研削といしの3要素」といいます。

研削といしと手研ぎといし

  • 研削といしの拡大写真
  • 研削といしの拡大写真
  • 雷おこしの拡大写真
  • 雷おこしの拡大写真

研削加工の概念図

研削加工の概念図

研削といしの3要素

研削といしの3要素

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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