切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第2章 ドリル

2-1 ドリルとは?

ドリルは穴をあけるための切削工具です。ドリルは「ツイストドリル」と呼ばれることもあります。 「ツイスト(twist)」は日本語で「ねじる、ひねる」という意味で、ツイストドリルは「ねじれたドリル」という意味になります。 ドリルの溝は穴をあける際に発生する切りくずを運搬する役割を担っており、溝がねじれていることによって、ドリルの刃先で発生する切りくずは螺旋階段を上るようにしてドリルの根元に向かって排出されます。 つまり、ドリルの溝がねじれていることは穴加工にとって大変重要なポイントといえます。

ドリルによる穴加工ではドリルは穴によって拘束されるため、発生する切りくずはドリルの溝と穴の側面の隙間を通って排出されます。 ドリルの溝のねじれが大きいと溝は緩やかな坂になり、切りくずは排出されやすくなります。この反面、ねじれが小さいほど溝は急な坂になり、切りくずは排出されにくくなります。 ただし、坂の距離はどうでしょうか。ねじれが大きいほど距離は長くなり、ねじれが小さいほど距離は短くなります。 つまり、ねじれが大きいほど切りくずが穴の外に排出されるまでの距離が長くなり、切りくずが詰まりやすくなります。ドリルによる穴加工で発生する切りくずと私たちが螺旋階段を上るのは全く同じ現象といえます。

さて、機械加工ではドリルによる穴加工を「キリ」と表記します。 機械図面に「キリ」と表記してあれば「ドリルで穴をあける」という意味になります。 キリは木工作業で使用する「錐(きり)」に由来しています。木工作業で使用される錐(きり)の断面は三角すいや四角すいになっており、円すいではありません。 下記の動画に示すように、錐の断面が三角すいや四角すいの場合には、錐と穴の間に隙間ができ、この空間が切りくずを排出する役割をすることで穴をあけることができます。 一方、錐の断面形状が円すいの場合には、錐と穴の間に空間ができないので穴をあけることができません。穴加工にとって切削工具と穴の隙間(ドリルの場合には溝)が必要不可欠であることがこの例からもわかります。

なお、ドリル(Drill)を和訳すると、「切削工具、錐(きり)」という意味になりますが、「反復練習、訓練」という意味もあります。 ドリルはぐるぐる回転しながら穴を深くしますが、この動きが反復練習して知識を深めることに似ていることに由来していると思われます。 小学校のときに算数や漢字などの練習問題を「ドリル」といいました。なぜドリルというのか疑問に思った方も多いと思いますが、「ドリル」には反復練習を行い、知識を深めていくという意味もあるのです。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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