切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第4章 フライス加工用の切削工具

4-4 エンドミルの種類

エンドミルは用途や目的に応じて多様なものがあります。たとえば、エンドミルの形状を見てみると、T形や逆三角形、テーパ形、クリスマスツリー形などのものがあり、エンドミルの形状を変えることにより、色々な形の溝を加工することができます。

次に、外周刃に注目すると、外周刃が波形になったものや「ニック」と呼ばれる溝を付けたものがあります。これらのエンドミルは切りくずを細かく分断でき、一般的なストレート刃のエンドミルに比べて切りくず排出能力に優れるため、荒加工に適しています。

さらに、エンドミルの底刃を見てみると、底刃が中心まである「センタカット刃」と中心まで刃がない「センタ穴付き刃」があります。センタカット刃はドリルのように穴加工(軸方向の送り)を行うことができますが、センタ穴付き刃は穴加工を行うことができません。

そして、通常使用されるエンドミルは外周の刃と底面の刃が直角(90°)になっており、このようなエンドミルを「スクエアエンドミル」といいます。この他には、底刃が全体的に丸くになった「ボールエンドミル」や底刃の角だけが丸くなった「ラジアスエンドミル」などがあります。 ボールエンドミルやラジアスエンドミルはスクエアエンドミルでは不可能な曲面の加工ができます。

ボールエンドミルで平面加工や傾斜加工を行うと、仕上げ面はエンドミルの底刃形状を転写した模様になり、底刃の干渉によって凹凸が発生します。凹凸の山の高さを「スキャラップハイト(またはカスプハイト)」といいます。 スキャラップ(scallop)はホタテを意味し、仕上げ面の模様がホタテ貝の貝殻に似ていることから名付けられました。なお、ボールエンドミルの中心は回転速度(切削速度)がゼロになるため仕上げ面がきれいになりません。 ボールエンドミルは材料を30°程度傾斜させて、底刃の外側で削るときれいな仕上げ面に加工することができます。

エンドミルは全長が長くなると、曲がりやすくなり、加工精度が悪くなります。このため、できるだけ短いものを選ぶとよいでしょう。長いエンドミルを購入し、エンドミルをフライス盤の主軸に押し込み、エンドミルの刃の部分を保持するのはNGです。 エンドミルの刃は鋭いため、少しの衝撃で欠けてしまいます。エンドミルは外周刃の終わりから5mm程度の箇所を拘束するのが正しい保持方法です。私たちの日常生活では「大は小を兼ねる」といいますが、エンドミルは「大は小を兼ねません」。このことは覚えておいてください。

いろいろな形状のエンドミル

いろいろな形状のエンドミル

特殊な外周刃のエンドミル

特殊な外周刃のエンドミル

底刃の有無

底刃の有無

刃径が違うエンドミル

刃径が違うエンドミル

ボールエンドミルを使用した曲面加工

ボールエンドミルを使用した曲面加工

ボールエンドミルで加工した仕上げ面形状

ボールエンドミルで加工した仕上げ面形状

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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