工具の通販モノタロウ 切削工具の基礎講座 コーティング切削工具

切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第1章 切削工具とは?

1-10 コーティング切削工具

コーティング切削工具は高速度工具鋼や超硬合金、サーメットなどを母材として、母材の表面を薄膜で覆った(コーティングした)切削工具です。コーティングは母材の性質を強化、補完することを目的として行われ、切削工具として必要な硬さ(耐摩耗性)や粘り強さ(耐衝撃性)、低摩擦性、非凝着性、耐熱性などの特性を得ることができます。お祭りの露店でよく見るチョコバナナやりんご飴も母材にコーティングをし、母材の美味しさを引き立てています。

コーティング膜の種類は「チタン(Ti)系窒化物」、「クロムCr系窒化物」、「非晶質炭素膜」の3種類に大別でき、代表的なコーティング膜には窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、窒化チタンカーバイト(TiCN)、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)、窒化クロム(CrN)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などがあります。

画像名

以下に、各種コーティング膜の特性と用途を記載します。

  • 窒化チタン(TiN)や炭化チタン(TiC)は基本的なコーティング膜で、母材との密着性が良く、工具寿命の延長に有効です。
  • 窒化チタンカーバイト(TiCN)はとくに硬さと耐溶着性に優れているため、鉄鋼材料を比較的低速(切削速度100~200m/min)で加工する場合に有効です。
  • 窒化チタンアルミニウム(TiAlN)はとくに硬さと耐熱性に優れているため、ステンレス鋼やチタン合金など熱伝導率が低く、切削点に切削熱が溜まりやすいなど、切削点温度が高くなる切削に有効です。
  • 窒化クロム(CrN)は摩擦係数が少なく潤滑性に優れ、耐熱性にも優れ、金型の離型性改善や機械部品の焼き付き防止にも利用されています、とくにCrNは銅の加工で凝着を抑える効果が大きく、銅に対する耐摩耗性が極めて高いため、銅の加工に威力を発揮します。
  • ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やダイヤモンドコーティングは低摩擦性と非凝着性に優れ、特にアルミニウム合金の切削に有効です。

表 各種コーティング膜の基本特性(一例)

  TiN TiCN TiAIN CrN DLC
耐熱性
耐摩耗性
潤滑性
耐衝撃性 ×


以上概説したように、硬さや粘り強さ、低摩擦性などすべての特性を有するようなコーティング膜はなく、膜種によって特性が異なるため、目的に応じて使い分けることが大切です。

なお、コーティングの膜厚は一般に0.5~20µm程度で、コーティングの成膜方法によって厚さが異なります。また、コーティングには1種の膜をコーティングした「単層膜」と2種以上の膜をコーティングした「多層膜(複層膜)」がありますが、近年のコーティング切削工具はほとんど多層膜です。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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