切削工具の基礎講座
2-4 薄板用ドリルの特徴
薄板用ドリルは薄い板に穴をあけるためのドリルです。薄板とは「何mmから薄板か?」ということが疑問になると思いますが、ドリル加工では「板厚がドリルの直径よりも薄い場合」を薄板ということが多いです。 したがって、ドリルの直径よりも板厚が薄い場合、とくに、「板厚がドリル直径の1/2程度の厚さ」のときは薄板用ドリルを優先して使用するのがよいでしょう。
図に示すように、薄板用ドリルはドリルの中心と外周コーナがほぼ同じか、ドリルの中心が僅かに高くなっています。このような形状から、薄板用ドリルは一般に「ローソク形ドリル、一文字ドリル」とも呼ばれています。
通常使用される先端角が118°のドリルはドリルを横から見たとき、ドリルの先端から外周コーナまでの長さが長くなります。このため、先端角が118°のドリルで薄板に穴加工を行う場合、ドリルの先端から外周コーナまでの長さが工作物の板厚よりも長くなってしまいます。 つまり、先端角が118°のドリルで薄板に穴加工を行うと、外周コーナが工作物に接触する前にドリルの先端が工作物を貫通してしまい、ドリルが中心を失ってしまい良好な穴加工ができません。 また、先端角が118°のドリルでは、ドリルの先端が穴を貫通する際に工作物を押込むため、押込まれた工作物が穴の出口で大きなバリとして残留してしまいます。とくに、アルミニウム合金などの粘り強い材料ではバリの形状が円筒形になります。
しかし、図からわかるように、薄板用ドリルでは先端と外周コーナの高さが同じか、ほとんど変わらないため、薄板の場合でも貫通時にドリルの先端が中心を見失うことなく、精度の高い穴加工を行うことができます。 また、薄板用ドリルは外周コーナが円周上に溝を描くように穴をあけるため、穴の出口にバリが生じにくいです。さらに、薄板用ドリルは薄板だけでなく、円筒状のパイプや波板など表面が平坦ではないものに穴加工を行うときにも使用できます。
なお、薄板ドリルの形状によく似た「鉄骨用ドリル」というドリルがあります。鉄骨用ドリルと薄板ドリルの形状はほぼ同じですが、鉄骨用ドリルは主として、穴の出口のバリを小さくできることを特徴とするドリルで、薄板用ではありません。 しかし、実用上は薄板の穴加工も可能です。薄板用ドリルおよび鉄骨用ドリルともに先端は特殊な形状をしていますので、ドリルが摩耗した場合、グラインダーで再研削を行うのは少し難しく、熟練が必要です。

薄板用ドリル

先端がローソク形状で薄板の加工に用いるドリル

薄板用ドリルを使用した利点
『切削工具の基礎講座』の目次
第1章 切削工具とは?
第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工
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2-2ドリルのねじれ角図に、ねじれ角の強弱と特徴を示します。「ねじれ角」とは、切れ刃の傾き角のことで、ドリルの軸を0°として考えます。
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2-3ドリルの先端角図に示すように、切れ刃を左右対称にしてドリルを横から見たとき、ドリルの先端の角度を「先端角」といいます。一般に多く使用されているドリルの先端角は118°ですが、近年では用途に合わせて色々な先端角のドリルが市販されています。
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2-4薄板用ドリルの特徴薄板用ドリルは薄い板に穴をあけるためのドリルです。薄板とは「何mmから薄板か?」ということが疑問になると思いますが、ドリル加工では「板厚がドリルの直径よりも薄い場合」を薄板ということが多いです。
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2-5色々な用途のドリル図に色々なドリルを示します。フラットドリルは先端角が180°(平坦な)のドリルで、傾斜面への穴加工や交差する穴をあけるときに使用すると便利なドリルです。