切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第4章 フライス加工用の切削工具

4-5 エンドミルのねじれ角

エンドミルのねじれ角は軸方向を基準として、外周刃が傾く角度です。つまり、軸を0°として角度を考えます。通常使用されるエンドミルのねじれ角は30°程度です。一般に、ねじれ角が40°以上の外周刃のエンドミルを「強ねじれ刃エンドミル」、ねじれ角が15°程度のエンドミルは「弱ねじれ刃エンドミル」、ねじれ角が0°の切れ刃を「直刃」または「スロッチングエンドミル」と呼ばれます。

図に、弱ねじれ刃エンドミルと強ねじれ刃エンドミルの模式図を示します。刃長が同じ場合、強ねじれ刃エンドミルは弱ねじれ刃エンドミルに比べ、外周刃が長くなることがわかります。つまり、切込み深さが同じ場合、強ねじれ刃エンドミルは工作物に接触する外周刃が長くなるため、外周刃の単位長さあたりに作用する切削抵抗が小さくなり、一方、弱ねじれ刃エンドミルは工作物に接触する外周刃が短くなるため、外周刃の単位長さあたりに作用する切削抵抗が大きくなります。簡単に言えば、強ねじれ刃エンドミルは工具寿命が長くなります。

弱ねじれ刃エンドミルと強ねじれ刃エンドミルの模式図

弱ねじれ刃エンドミルと強ねじれ刃エンドミルの模式図



このように、強ねじれ刃エンドミルは外周刃が長い分、切削抵抗や切削熱が分散されるため、ステンレス鋼のように熱伝導率が低く、切れ刃の摩耗が早い材料を削る際には有効といえます。また、ねじれ角が大きくなるほど、外周刃のコーナは鋭利になるため切れ味が高いです。このため、アルミ合金や銅合金のような比較的軟らかい材料に適します。

反面、ねじれ角が大きい場合には不都合な点もいくつかあります。図に、ねじれ角の大きさによる切削抵抗の向きを示します。図から、切削抵抗は外周刃に垂直な方向に作用するため、ねじれ角が0°の直刃では、エンドミルの回転方向(送り方向)のみに切削抵抗が作用しますが、ねじれ角が大きくなるほど切削抵抗がエンドミルを引き抜く方向に作用することがわかります。つまり、ねじれ角が大きい場合には、切削中、切削抵抗によってエンドミルが引っ張られホルダから抜け落ちることがあり、このような事例はたびたび見られます。強ねじれ刃エンドミルを使用する場合には、ホルダの締め付け力を通常よりも強くするよう心掛けてください。

ねじれ角による切削抵抗の向きの違い

ねじれ角による切削抵抗の向きの違い



また、強ねじれ刃エンドミルは外周刃の傾きによって外周刃が工作物を削るタイミングがズレるため、仕上げ面にうねりが生じやすくなります。さらに、溝加工で強ねじれ刃エンドミルを使用すると溝が傾くことがあります。このため、溝加工では弱ねじれ刃エンドミルを使用すのがよいでしょう。

エンドミルのねじれ角は目的や用途に正しく選ぶことが大切です。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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