工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料の変遷 4-16VOC削減型塗料-粉体とはどんな塗料なのか

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第4章 塗料のルーツと変遷

4-16 VOC削減型塗料-粉体とはどんな塗料なのか

1.粉体塗料の事始め

  粉体塗装の事始めは鉄鋼をイオン化傾向の大きい亜鉛で被覆する金属溶射である。 溶射とは金属を(例えば、亜鉛を加熱して)溶かしながら圧縮空気と混合させて加熱粒子として、鉄鋼にくっつけるエアスプレー法である。 噴霧された金属粒子は目標以外の箇所にも付着するから、仕上がり外観が悪くなる。仕上がり性を良くするのであれば、溶かした亜鉛(液体)を浴に入れて鉄鋼を浸せきさせる方が良い。後者の方法を溶融亜鉛メッキ法と呼ぶが、金属を粒子として付着させる方法ではないから、粉体塗装の事始めにならない。 金属溶射の次に出て来た方法はポリエチレン(PE)粉体を亜鉛と同様にして、圧縮空気に乗せて加熱溶融させ、金属に吹き付ける方法である。大沼氏4)によると、これが1948年に行われたので、図4-34に示すように、日本における粉体塗装の事始はPE粉体と言われている。 初期の粉体塗装はフレームスプレー法4)と呼ばれ、ポリマーの溶融流動状態は十分ではないから、後加熱が必要であった。

図4-34 粉体塗料と塗装の事始め
図4-34 粉体塗料と塗装の事始め

  1957年にはドイツで、図4-35に示す流動浸せき法が開発された。 ポリマー粒子槽に0.1MPa程度の圧縮空気を流し、ポリマー粒子を流動状態にしておき、この中に加熱した被塗物の金属を入れ、ポリマー粒子を溶融させる。 さらに、今日の塗装スタイルであるコロナ帯電式静電粉体塗装法は1962年にフランスのサメス社で開発された。 日本における粉体塗料の流れは図4-34に示すように、熱可塑性(チョコタイプ)樹脂から出発し、1970年頃から熱硬化性(クッキータイプ)樹脂粉体が開発され、1980年には、粉体の代表選手であるエポキシ/ポリエステル系ハイブリッド粉体塗料が上市された。 2019年度に年間生産量は4万tに達したが、塗料全体での構成比は3%に達していない。 本来ならばもっと伸びても良いのに、なぜ、伸び悩んでいるのかについても考えたい。

図4-35 粉体塗料の塗装法-流動浸せき法
図4-35 粉体塗料の塗装法-流動浸せき法13)

2.粉体塗料が一般塗料と異なる点とは

2.1 原料はすべて粉体(固体)である

  原料として、図4-36(a)に示すように、一般に液体成分を使用しない。 固体成分の樹脂を溶融させて練り合わせる。 混練とも呼ぶように、単純に混合するだけになる。 しかも、熱硬化性樹脂を使用するから硬化剤も固体であり、溶融して混練される。 最近、使用量が多いウレタン硬化ポリエステル粉体塗料には-NCOをブロックした硬化剤が使用されている。 ブロック剤の解離温度は170℃であるから、焼付温度を180℃以上にせざるを得ない。 塗料化するときには主剤の樹脂が溶融しなければならず、混練時の温度を100℃程度にしている。

  次に、図4-36(b)に示す製造工程を説明する。 まず、初めに温度をかけないで原料をかき混ぜる予備混合を行い、樹脂を溶融させるエクストルーダーに入れる。 樹脂が溶融すると、各原料が混練されて、流動物になる。これを煎餅のように引き延ばし、冷却して粉砕し、ペレットにする。 さらに、ペレットを粉砕し、平均粒径40μm程度の粉体を調製し、篩(ふるい)通しを行って、粉体塗料になる。

図4-36 粉体塗料の原料と製造方法(a) 図4-36 粉体塗料の原料と製造方法(b)
図4-36 粉体塗料の原料と製造方法13)

2.2 粉体塗料の混合で調色ができない

  調色は混練時に複数顔料の配合(重量分率)で可能だが、エクストルーダーの仕様により、小ロットや特注色の対応は難しい。 液体塗料であれば、調色用原色ベースがあるから小ロットでも、広範囲な特注色でも対応できるが、粉体塗料では単色である赤、白の粉体塗料同士を混合しても、ピンクにはならない。このように粉体塗料の混合で、調色ができず、需要が伸びない一因でもある。

2.3 顔料分散工程が無いため、顔料充てん濃度が低くなる

  調色は溶融混練時であれば可能であり、粉体塗料の適合する被塗物はガスボンベやガードレールのような大きなロットで、微妙な色違いを問題にしない物がよい。 一方、液体塗料では分散工程で、顔料濃度の高いミルベースを調製し、顔料濃度を低めた調色ベースを作る。 これらは図4-37に示すように顔料が良好に分散されており、含量の異なる調色ベースとも良く混ざり合い、ほぼ均一な色味になる。 顔料を扱う色材分野では顔料分散は大切な工程である。

図4-37 塗料製造に起因する顔料の分散状態
図4-37 塗料製造に起因する顔料の分散状態24)

2.4 粉体にとってのシンナー作用は空気が行う

  塗料にとって貯蔵安定性は大切な特性である。 静電塗装時に粉体塗料の付着性(帯電性)が悪くなり、粒子の流動性の低下により異物が発生する時がある。 このような時には、粉体塗料に強制的に空気を流し、篩(ふるい)通しを行うと良い。 以前の良好な状態に復帰できることがある。 僅かな粒子の凝集で帯電特性や流動性が劣化しやすい。 この時の粉体に対する空気の作用は、溶剤型塗料におけるシンナーの作用と同等である。 なお、篩(ふるい)通しを行う際に、粉体塗料にアルミナやシリカの微粒子を添加すると良い。 1μm程度の添加微粒子が40μm程度の粉体粒子表面に吸着し、+イオンになる。この作用で静電塗装時に-イオンの空気の吸着量が増え、帯電性能が向上すると考えられる。 この効果は、高湿度下で粉体粒子の帯電性能が低下した時に顕著に現れるらしい。

2.5 架橋前の樹脂のTgは高い方が良い

  保管中に砂糖や塩が固まるように、粉同士が凝集して固化する現象をブロッキングと呼ぶ。 夏場に保管中の温度が40℃以上になったら起きやすい。 できるだけ30℃以下で保管することが大切である。2.4で述べた現象はブロッキングの初期と考えて良い。

  塗料物性から考えた耐ブロッキング性の対策として、架橋前の樹脂のTg を60℃程度にすることが有効である。 保管中に粒子同士の接触で、粒子の軟化を防ぐことができるからである。 架橋前の樹脂のTg を上昇させるためには、エポキシ樹脂やフェノール樹脂のように環構造を多く含有する樹脂を選択すると良い。 しかし、架橋後には硬くて脆い塗膜になる心配がある。 この対策として、図4-38に示すジャングルジムの目の粗さを粗くして、たわみ性を持たせることにする。

図4-38 熱硬化性(クッキータイプ)樹脂塗料の橋かけ反応(化学結合)により形成する塗膜モデル
図4-38 熱硬化性(クッキータイプ)樹脂塗料の橋かけ反応(化学結合)により形成する塗膜モデル20)

2.6 1回塗り仕上げが可能である

  塗装は基本的に図4-39に示すように、下塗り、中塗り、上塗りで仕上げられる。 塗装効果は各層の機能が総合されて発現する。 新車塗装では約100μmの膜厚に塗装効果が集約されているから、この塗装系に粉体を登場させようとすると相当高いハードルが課せられる。

図4-39 塗装の基本工程と各塗膜層の役割
図4-39 塗装の基本工程と各塗膜層の役割

  表4-9に示すエアコン室外機ボックスの塗装仕様を見ると、採用塗料の種類で塗装工程が変わる。 粉体塗料では1回塗り仕上げが可能である。 1回塗りで40~50μmの膜厚を塗り、溶融過程でエポキシ樹脂が被塗物界面に移行する粉体塗料もある。 このように粉体塗料は1回塗りで塗装効果を発現することを得意にしている。 さらに、粉体塗料はVOCをゼロと見なせること、危険物ではないこと、静電粉体塗装機を使用すれば技能要素が要らないことなど、メリットは多いが、需要増に結びつかない。 前述した粉体塗料の調色の他に、もっと、核心に迫る欠点がある。

表4-9 塗装系と塗装仕様2) 

表4-9 塗装系と塗装仕様

  粉体塗料は平均粒径40μm程度の粒子であり、被塗物に付着した帯電粒子は溶融過程でレベリングしても、液体塗料の様に均一で平滑な塗り肌にはなりにくい。 この事がネックになり、新車の塗装ラインにおいては、粉体塗料が上塗りクリヤに採用されていない。 また、粉体塗料の1回塗りは得意であるが、塗装系の一部を分担するのは難しい。 塗装ブースも別になり効率的ではない。 水性塗料では塗装後にFlash offが必要であるが、粉体塗料ではFlash offなしで、塗装後に焼付けできることなど、液体塗料と粉体塗料の差異が歴然としてくる。 著者は粉体塗料の需要を伸ばすためには、次の考えが必要だと考える。

  我々は粉体を全く新しい環境対応型塗料であると認識し、専用の塗装ラインを構築する考えで臨む必要がある。 このような取組をせずに塗料の1種として使用しようとしても上手く行かない。 一方で、現有設備を活用できるならば、水性で良いという考えが浸透しているから、粉体塗料の需要が伸びないのも事実である。 実用面から見た環境対応型塗料の比較を表4-10に示す。 この比較表からも判るように、粉体塗料は従来の塗装法では手に負えないし、既存の設備を使えないことも理解できる。

表4-10 実用面から見た環境対応型塗料の比較

表4-10 実用面から見た環境対応型塗料の比較
執筆: 元川上塗料株式会社 社外取締役 坪田 実

〔引用・参考文献〕*4章通し番号
1)大藪泰:表面技術, Vol.70, No.5, p.236-241 (2019)
2)職業能力開発総合大学校編:“塗料”, 雇用問題研究会, p.15, 18, 126 (2007)
3)工藤雄一郎・四柳嘉章: 植生史研究 第23巻 第2号 p.55-58 (2015)
4)大沼清利:“技術の系統化調査報告”, 国立科学博物館, Vol.15, March (2010)
5)前川浩二:“第52回塗料入門講座”講演テキスト, (社)色材協会 関東支部 (2011)
6)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』, 玉虫厨子
7)http://msatoh.sakura.ne.jp/08053site.htm
茶の湯の森 (nakada-net.jp)で検索してください。
8)https://boku-undo.co.jp/story/st2.html
9)エチルアルコールと水の密度をそれぞれ0.79、1.0g/cm3、酒のアルコール濃度を16wt%として、酒の密度を計算した。
10)https://4travel.jp/travelogue/10116454
11)日本塗料工業会データを一部参照
12)坪田実、高橋保、長沼桂、上原孝夫:塗装工学, Vol.36, No.6, 213-222 (2001)
13)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.39,55,91,155 (2008)
14)坪田実:塗装技術、理工出版社、2011年4月号、p128-134 (2011)
15)アネスト岩田株式会社80年史 (2005)
16)坪田実:“工業塗装入門”, p.27, 日刊工業新聞社(2019)
17)R.H.Kienle, C.S.Ferguson:Ind.Eng.Chem., 21,349 (1929)
18)坪田実:色材, 91, No.8, p.282 (2018)
19)坪田実:学位論文“塗膜物性に及ぼす顔料効果の研究”, 東京大学, p.202 (1985)
20)坪田実:“図解入門塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.57,75 (2016)
21)武井昇:“旭サナックテクニカルレビュー2014”, p.2 (2014)
22)日本塗料工業会ホームページ:http://www.toryo.or.jp/jp/info/index.html
23)大澤悟:建材試験センター 建材試験情報 5月号(2014)
24)シーエムシー出版編集部:“塗料開発の新展開”, シーエムシー(2022)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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