マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

3-3 工具長補正と工具径補正

マシニングセンタは自動工具交換機能(ATC)を備え、正面フライスやエンドミル、ドリル、タップなど加工目的に応じた色々な切削工具を使い分けながら加工を進めます。切削工具は短いものから長いもの、小径のものから大径のもの様々なため使用する切削工具の長さや外径に合わせてNCプログラムを作成・修正すると非常に不便です。そこで、NCプログラムには工具長や工具径を便宜上無視することができる指令があります。この指令を「工具長補正」、「工具径補正」といいます。

X軸とY軸は主軸(切削工具)の中心が移動経路の基点になるため切削工具の種類によって切削工具の刃先が機械座標から加工点に至るまでの移動量(距離)は変わりません(同じです)。しかし、Z軸は工具長によって切削工具の刃先が機械座標から加工点に至るまでの移動量(距離)が異なります。このため段取り作業の段階で切削工具の長さ(工具長)を測定し、切削工具ごとの工具長をNC装置に入力しておきます。そして、使用する切削工具ごとに工具長分だけZ軸のプラス方向に補正することで、工具長(切削工具の種類)に関係なくZ軸の座標を考えることができます。Z軸座標の起点は常に主軸端で考えればよいということです。この考え方(仕組み)を「工具長補正」といいます。

工具長補正の必要性

工具長補正の必要性

 

次に、「工具径補正」です。前述したように、X軸とY軸は主軸(切削工具)の中心が移動経路の基点になります。すると、たとえばエンドミルを使用して輪郭形状を加工した場合、切削工具の半径分だけ削り過ぎることになります。一方、エンドミルが指令値(座標値)から半径分だけずれた経路を移動すると目的の輪郭形状を加工することができます。このように、使用するエンドミルの半径値を予めマシニングセンタに入力しておき、切削工具の半径分だけ移動経路をずらす機能を「工具径補正」といいます。つまり、工具径補正を指令することによりエンドミル(切削工具)の外径を考慮することなく、常に主軸(切削工具)の中心を基点に移動経路(座標値)を考えればよいことになります。

工具径補正は
(1)切削工具の進行方向に対して左側にずらす場合と、
(2)切削工具の進行方向に対して右側にずらす場合
の2種類があり、切削工具の進行方向に対して左側にずれるよう指令するには「G41」を、切削工具の進行方向に対して右側にずれるよう指令するには「G42」を入力します。「G40」を指令することにより工具径補正を解除することができます。

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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