切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第1章 切削工具とは?

1-9 ダイヤモンド

ダイヤモンドは天然に存在する物質の中で最も硬く、熱伝導率が高いことが特徴です。熱伝導率が高いことは切削点で発生する熱を切れ刃に溜めることなく放出しやすいという点で切削工具に必要な性質です。ダイヤモンド工具はアルミニウム合金、銅合金などの非鉄金属材料をはじめ、石材、ガラス、プラスチックなどの非金属材料、超硬合金の加工に使用されます。一方、ダイヤモンドは高温になると鉄と化学反応するため鉄系金属には使用できません。

ダイヤモンドは天然と人工の2種類があります。一般に、切削工具など工業用に使用される天然のダイヤモンドは装飾用にならなかったランクの品物ですが、採鉱量に限りがあるため価格は高く、需要による価格変動が発生します。また、採掘場所により機械的性質に一定でないことが課題です。人工ダイヤモンドは1955 年、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社により開発され、供給量と品質が安定していることが利点で、現在、切削工具のほとんどは人工ダイヤモンドを採用しています。

ダイヤモンドは「一つの結晶の塊でできた単結晶ダイヤモンド」と「小さなダイヤモンドが結合してできた多結晶ダイヤモンド」に分類され、天然の多くは単結晶ダイヤモンドで、多結晶ダイヤモンドはほとんどありません。単結晶ダイヤモンドは結晶の向きにより硬い部分とそれほど硬くない部分があり、劈開する(一定の方向に割れやすい)特性を持つため、結晶の向きに沿って割れた面を使用することで鋭利な刃先を得られる反面、作用する力の向きによっては硬さが不安定になることが欠点です。一方、多結晶ダイヤモンドは小さな結晶の集合体ですので、単結晶ダイヤモンドと同様な鋭利な刃先は得られませんが、どのような方向からの力にも強く、劈開しにくいことが利点です。

多結晶ダイヤモンドは単結晶のダイヤモンド粉末をコバルト(結合剤)で焼き固めたもので、構造は雷おこし(米と水あめ)と似ています。単結晶のダイヤモンド粉末をコバルト(結合剤)で固めたものをダイヤモンド焼結体といい、焼結体を表す polycrystalline(ポリクリスタリン)を頭につけてPCD=Poly Crystalline Diamondと表記される場合があります。

ダイヤモンド工具

多結晶ダイヤモンドの構造

多結晶ダイヤモンドの構造
暗灰色で示された領域がダイヤモンド、明灰色で示された領域が結合材を表す。
結合材の働きによりダイヤモンド同士が強固に結合している。



執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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