切削工具の基礎講座
6-2 盛上げタップ(非切削タップ)
タップには切りくずを排出してねじ形状を加工する切削タップと切りくずを排出しないで(工作物を塑性変形させることにより)ねじ形状を加工する非切削タップの2種類があり、非切削タップを盛上げタップといいます。盛上げタップは転造タップ、ロールタップとも呼ばれ、製造会社によって呼称が異なりますので注意してください。

盛上げタップ(転造タップ,ロールタップ)
盛上げタップはタップのねじ山を工作物に押し付け、塑性変形させることによってねじ形状をつくります。このため適用できる工作物材質は展延性の良好なアルミニウム合金や低炭素鋼、ステンレス鋼などに限られ、展延性に優れない鋳鉄などには適しません。盛上げタップは止まり穴、通り穴どちらにも使用できまが、切りくずが発生しないので、穴底に切りくず溜まりが気になる止り穴にとくに有効です。
盛上げタップは軸方向に溝があるものとないものがあります。この溝は切削油剤の供給をよくするための溝です。盛上げタップ塑性変形によってねじ形状を加工するため、加工後のめねじの強度が高く、有効径のバラツキが少ないことが特徴です。

いろいろなタップ
図に、切削タップと盛上げタップの下穴とめねじの内径の概念図を示します。図に示すように、切削タップでは下穴の内径がそのまま、めねじの内径になるため、めねじの内径を確認し、下穴を決めればよいことになります。下穴の目安は「めねじの呼び径(外径)からピッチを引いた値」といわれています。

図 切削タップと盛上げタップの下穴とめねじ内径の概念図
盛上げタップでは下穴の内径とめねじの内径は異なり、下穴の内径がめねじの内径よりも大きくしなければいけません。盛上げタップでは、下穴の内径が大きいと、タップの寿命は長くなりますが、引っ掛かり率が低くなります。一方、下穴の内径が小さいと、タップの寿命は短くなりますが、引っ掛かり率が高くなります。盛上げタップは塑性変形量が工作物の材質によって変わるため、塑性変形量を十分に考慮して、下穴の内径を決めることが大切です。盛上げタップの下穴の目安は「めねじの呼び径(外径)から1/2ピッチを引いた値」といわれています。
盛上げタップは切削タップよりも下穴の内径が大きくなることを覚えておくとよいでしょう。
『切削工具の基礎講座』の目次
第1章 切削工具とは?
第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工
第3章 旋盤用の切削工具
第4章 フライス加工用の切削工具
第5章 研削砥石
第6章 特徴的な切削工具
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6-1切削タップタップはドリルであけた穴に通して、「めねじ」を加工するための切削工具です。タップは切りくずが詰まりやすく折れやすいため、タップ加工は様々な加工工程の中でトラブルの多い加工です。
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6-2盛上げタップ(非切削タップ)タップには切りくずを排出してねじ形状を加工する切削タップと切りくずを排出しないで(工作物を塑性変形させることにより)ねじ形状を加工する非切削タップの2種類があり、非切削タップを盛上げタップといいます。
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6-3センタ穴ドリルセンタ穴ドリルは本来、旋盤加工や円筒研削加工などセンタを使用して材料を支持する際、センタの先端を沈めるために円形材料の側面(端面)の軸中心に小さな穴をあけるための切削工具です。
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6-4リーマドリルであけた穴は一見真円のように見えますが、厳密に測定すると形状は歪み、穴の内径寸法はドリルの外径より大きくなっています。