工具の通販モノタロウ マシニングセンタの基礎講座 切りくず回収の仕組み:チップコンベア

マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第2章 マシニングセンタの装備

2-3 切りくず回収の仕組み:チップコンベア

機械加工は工作物の不要な箇所を削り取り、目的の形状をつくる加工法です。削り取った箇所は切りくずとなって排出されるため、視点を変えると、機械加工は切りくずをつくっているといっても過言ではありません。工作物を削るときに消費されるエネルギの大部分は切りくずの生成、分離に使われます。

切りくずがマシニングセンタの機内に堆積すると、切りくずの熱によってベッドやテーブル、コラムが温度変化するため加工精度に影響します。このため、切りくずは速やかに機外(ベッドやテーブルなど構造部品に触れない場所)へ排出する必要があります。

マシニングセンタには切りくずを機外に運搬する装備が備わっており、この装置を「チップコンベア」といいます。チップ(chip)は切りくず、コンベア(conveyor)は運搬する装置という意味です。切りくずには切削油剤が付着しているため、チップコンベアには切りくずを運搬するだけではなく、切りくずと切削油剤を分離させる機能も必要です。

チップコンベアの切りくずを運搬する方式には主として、(1)ヒンジ式、(2)スクレーパ式、(3)スクリュー式、(4)コイル式、(5)プッシュバー式の5種類があります。

 

チップコンベア


(1)ヒンジ式は戦国時代の鎧や戦車のキャタピラのような構造で、つなぎ合わせた鋼板を移動させて切りくずを運搬する方式です。ヒンジ式は切りくずを鋼板の上に乗せて運ぶため、工作物の材質や切りくずの状態に関係なく効率よく運搬できることが利点です。ただし、粉状の切りくずは鋼板の隙間に入り込むことや切りくずが鋼板に張り付きやすくなるのが欠点です。

ヒンジ式

ヒンジ式のプレートに切りくずだけを載せて搬送することで、クーラントと分離する。


(2)スクレーパ式はスクレーパといわれる板状の「へら」で切りくずを運搬する方式です。粉状の切りくずに適しており、切削油の分離がヒンジ式より優れています。

スクレーパ式

コンベアの底板に溜まった切りくずを板でかき上げて切りくずだけを排出する。


(3)スクリュー式はらせん状の羽根が回転することによる巻き上げ作用によって切りくずを運搬する方式で、スクリューの中心に軸がある有軸と軸がない無軸のものがあります。スクリュー式は短距離の運搬に適しており、安価であることが利点です。

機外への切りくず排出
スクリュー式

スクリューを回転させて切りくずを搬送する。


(4)コイル式はスクリュー式と構造が似ており、スクリューの中心に軸がなくバネのような構造で、コイルの回転による巻き上げ作用により切りくずを運搬する方式です。スクリュー式、コイル式ともに長く繋がった切りくずは羽根やコイルに巻き付き、絡むことがあります。ただし、切削油剤の分離はヒンジ式、スクレーパ式よりも優れています。


(5)プッシュバー式はコンベアの左右に付けた突起で切りくずを引っ掛けて、運搬する方式です。

プッシュバー式

プッシュバーの前後動で切りくずを搬送する。


機械加工で発生する切りくずは長いもの、短いもの、厚いもの、薄いもの、粉状のものなど様々ですので、切りくずに合った運搬方式を選ぶことが大切です。

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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