マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

5-4 加速度と加加速度

主軸頭やテーブルなど運動体の切削送り速度が速いほど加工時間が短くなるため生産性が向上します。切削送り速度の最高速度はマシニングセンタに求められる重要な性能で、切削送り速度が速いほど「俊敏性が良い」と表現されます。

しかし切削送り速度だけで生産性を評価することはできません。運動は「加速、等速、減速、停止」という4つの基本挙動があり、これらの挙動をグラフにすると図のようになります。横軸が時間(s)で、縦軸が速度(m/s)です。

加速度による運動挙動の違い
加速度による運動挙動の違い(生産性の評価基準)

図を確認すると、AとBは等速状態の速度は同じことがわかります。しかし、Aは等速になるまでの加速の時間が長く、また、停止するまでの減速の時間も長いことがわかります。一方、Bは等速になるまでの加速の時間が短く、また、停止するまでの減速の時間も短いことがわかります。言い換えると、プログラムで指令した切削送り速度で動いている時間はBがAよりも長いということです。加速度が速いほどプログラムで指令した座標値に移動するまでの時間が短くなるということです。

加速度は速度(m/s)を時間(s)で割った値で、図では加速時の「傾き」に相当します。加速度の単位は「m/s2」ですから単位からも加速度の意味を理解することもできます。

このように、加速度の差によって指令した切削送り速度に到達するまでの時間(加速時間)とその速度から停止するまでの時間(減速時間:正式には減速度、負の加速度)に違いが生じ、等速状態の速度(指令した切削送り速度の数値)で動ける時間が異なります。すなわち、加速度はマシニングセンタの生産性を評価する指標の一つで、加速度が速いほど生産性が高いマシニングセンタといえます。

最近のマシニングセンタでは加速度が1~1.5G程度のものが多いです。1Gは重力加速度のことで、重力加速度は約9.8m/s2ですから、加速度1Gのマシニングセンタは1秒間に約9.8m/sの速度に達することができるということです。

加速度が早くなると移動の前後で衝撃(ショック)が生じ、加工精度に影響します。これは加速度の時間変化「加加速度(ジャーク)」という指標になり、加加速度が低いほどショックは小さくなり加工精度が安定します。「加速度は生産性、加加速度は加工精度に影響する指標」であることを覚えておきましょう。加速度は1刃あたりの送り量に直結するので工具寿命にも影響します。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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