工具の通販モノタロウ マシニングセンタの基礎講座 構造の空間精度を向上させる「きさげ加工」

マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第4章 マシニングセンタの要素技術

4-5 構造の空間精度を向上させる「きさげ加工」

マシニングセンタの本体構造であるベッド(土台)とコラム(支柱)は多くの場合、ねじ(ボルト)で締結されて固定されています。また、ボールねじを支えるブラケットの取り付け面や、ベッドとガイドレール(リニアガイド)の取り付け面もねじ(ボルト)による締結を採用しています。

物体と物体の接触面は互いの平面がピッタリ合っていることが大切です。もし互いの接触面上に凹凸があり接触面が平面でない場合、両者を強制的にねじで締結すると接触面にはひずみによるストレスが発生するため構造的な空間精度が悪くなります。そこで接触面をピッタリ合わせる方法に「きさげ加工」と呼ばれる手仕上げ加工があります。きさげ加工はスクレーパ(またはきさげ)と呼ばれる工具を使用して平面の凹凸を除去し、完全な平面をつくる加工です。

きさげ加工の必要性(接触面のひずみ)

きさげ加工

きさげ加工

 

具体的には、精密に加工した平面に顔料(光明丹)を塗り、平面に加工したい面を擦り合わせると、すり合わせた面の凸部に顔料が転写されます。この顔料が付いた部分は顔料が付かなかった部分よりも高い部分になるので、この部分をスクレーパで細かく除去していきます。この作業を何度か繰り返すことで完全に近い平面をつくることができます。また、固定部と運動部の案内面をきさげ加工する際は、実際に運動部を動かし、運動精度を光学式の測定器を使用して測定しながら凸個所を見つけることも行われます。

きさげ加工

きさげ加工

 

きさげ加工の工程(光学式測定器を使用して凹凸を測定)

きさげ加工

【1】オートコリメータできさげ面の真直度を測定します。

きさげ加工

【2】粗きさげを行います。


きさげ加工

【3】きさげ面の真直度をオートコリメータで測定し、平面になっているか確認します。

きさげ加工

【4】目標の平面になるまできさげと測定を繰り返します。

 

きさげ加工は人による完全な手作業で微小な単位で材料を削り取るため、切削熱が発生せず、材料にストレス(内部応力)も与えない優しい加工です。研削盤など工作機械を使用して平面を加工することは可能ですが、微小な単位で測定すると切削熱や残留応力により加工面にはわずかなたわみやねじれが生じます。すなわち、工作機械では「きさげ加工」と同等な平面を加工することはできません。一方、きさげ加工が不十分な場合や下手な場合には、対向する接触面がピッタリと合わず、ひずみが生じ、結果的に本体構造がひずむことになります(空間精度が悪くなります)。したがって、マシニングセンタの製造メーカは「きさげ加工」の重要性を訴えるとともに、緻密なきさげ加工を施し、自社の構造が優れていることを強調しています。

きさげ加工は案内面(摺動面)に施されることもあり、この場合には「きさげ面」の凹部が微小な油たまりとして作用し、摺動面の潤滑と保護の役割をします。

きさげ面は油たまりとしても作用する

油たまり

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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