マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

5-5 母性原理

マシニングセンタは高速に回転する切削工具で、工作物の不要な部分を除去し、所望の形状を創製する工作機械です。この加工原理からわかるように、加工した製品や部品の形状精度は切削工具(主軸)の回転精度や切削工具、工作物(主軸頭やテーブル)の運動精度に依存することになります。回転振れが大きい切削工具やフラフラ移動する工作物では形状精度の高い製品や部品をつくることはできません。

マシニングセンタ(工作機械)は製品・部品を産み出す母であり、製品・部品はマシニングセンタ(工作機械)から産み出される子供であるという考え方から、マシニングセンタ(工作機械)は「マザーマシン(母なる機械)」と呼ばれます。そして、マザーマシンは自身が持つ運動精度を超える製品・部品(形状精度)をつくることができないという基本原理を「母性原理」といいます。母性原理は加工精度の限界を示す原理であり、「蛙の子は蛙」ということわざに似ています。

マザーマシンの概念図

マザーマシンの概念図

 

加工の流れと工作機械の役割

加工の流れと工作機械の役割

 

自身よりも精度の高い製品や部品をつくることができないという母性原理に従うと、工業製品(自動車、家電製品など)や工作機械が時代とともに高精度・高品質に進化してきたことを否定することになります。それではどのようにして工業製品や工作機械は進化してきたのでしょうか。

たとえば、回転精度や運動精度が10μmの工作機械を使用して多数の製品・部品をつくった場合、1個だけ形状精度が1μmに近い良品の製品・部品がつくれることがあります。つまり、稀に「鳶(とんび)が鷹(たか)を生む」ことがあるのです。このような良品の製品を選び、組み合わせることにより、母性原理に従わない工業製品や部品をつくることができ、工作機械や工業製品は進化してきたのです。

工業製品や工作機械は多数の構造部品を組み合わせてつくられていますが、1つ1つの部品の形状精度を考慮して、組み立てを調整すれば結果的に良品な工業製品をつくることができます。組み立て調整を行う人間の職人技も工業製品の進化に貢献しています。デジタルとアナログの融合が工業製品の進化の根源といえ、この仕組みは今後も変わりません。とくに工業製品を生み出す工作機械の組み立ては極めて熟練した組立技能が必要です。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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