マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

6-7 水溶性切削油剤の管理

夏の暑い時期になると生産現場に切削油剤特有の匂いが漂うことがあります。この匂いは水溶性切削油剤に含まれる添加剤が微生物(バクテリア)の栄養源になり、水溶性切削油剤が劣化・腐敗することによって生じます。微生物は空気中に存在するため混入を防ぐことはできません。水溶性切削油剤の劣化・腐敗が進むと、本来の切削性能が失われるほか作業者の健康被害にもつながります。このため、水溶性切削油剤は腐敗しないよう管理しなければいけません。不水溶性切削油剤は使用期間が長くなると酸化や乳化が進み、切削性能が劣化しますが腐敗はしません。

水溶性切削油剤が腐敗する主因には(1)濃度の低下、(2)潤滑油の混入、(3)切りくずの混入が挙げられます。水溶性切削油剤は製造メーカが規定した推奨濃度の範囲内において本来持つ性能が発揮されるようにつくられているため、推奨濃度の範囲を超える(薄くなったり、濃くなったりする)と、防腐性や抗菌性の性能も失われます。

また、潤滑油などの他油が切削油タンクに混入すると、他油に含まれる添加剤が切削油剤に含まれる添加剤と混ざり、添加量のバランスが崩れ、劣化。腐敗の進行を促進します。他油が混入すると比重の差によって切削油タンクの油面に他油が浮上します。浮上した他油は掬うと取り除くことができます。自動で浮上油を除去する「オイルスキマー」と呼ばれる装置も市販されています。

さらに、切りくずが切削油タンクに混入すると、切りくずから金属元素が溶出し、切削油剤の成分を乱すことになります。切りくずは各種フィルタを使用して切削油タンクに混入しないようにする方策が大切です。

水溶性切削油剤の主な管理方法には(1)匂い、(2)外観色、(3)pH(ペーハー)、(4)濃度があります。水溶性切削油剤は劣化・腐敗が進むと匂いがきつくなり、白濁してきます。(1)匂いと(2)外観色は最も簡単な判定法です。(3)pHは酸性またはアルカリ性の度合いを示す指標で、0~14の範囲で表します。7が中性で、0に近づくほど酸性が強くなり、14に近づくほどアルカリ性が強くなります。水道水に溶かした直後の水溶性切削油剤はおおむね8~10の弱アルカリ性で、劣化・腐敗が進むとpHが落ち、酸性になります。pHを測定し、8~10をキープすることが大切です。(4)濃度は濃度計や屈折計を使用することで測定できます。濃度が推奨濃度内であることを確認します。

切削油剤は金属加工にとって重要なアイテムですが、あまり気に留められないのが現状です。切削油剤は化学製品でデリケートな部分が多いため、しっかりと管理し、本来持つ性能を長く発揮できるよう正しい知識を持ち、運用管理に努めることが大切です。

 

水溶性切削油剤の管理項目と意義

項目 意義
外観 外観色の変化、浮上油の有無を観察することにより、性能の劣化、他油混入を管理する。
臭気 臭気を観察することにより、腐敗の兆候を管理する。
pH pHを測定することにより、性能劣化を管理する。
濃度 濃度を測定することにより規定濃度を管理する。
他油混入量 他油混入量および浮上油を把握することにより、性能劣化・腐敗促進の傾向を管理する。
サビ止め性 工作物、工作機械の錆の発生状況から油剤の性能劣化を管理する。

 

水溶性切削油剤の管理(pHと濃度チェック:イメージ)

水溶性切削油剤の管理(pHと濃度チェック:イメージ)

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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