切削工具の基礎講座
1-2 切削工具の材質
切削工具は削る材料(木材や金属)よりも3~4倍程度の硬さが必要だといわれています。 切削工具と削る材料の硬さが同じであれば、切削工具は削る材料に負けてしまい上手に削れません。 この関係は格闘技と同じで、両者の強さに差があれば勝敗が予測しやすいですが、両者の強さが同じであれば相打ちになることもあり、 勝敗の予測が難しくなります。大根(野菜)で大根(野菜)は切れないですね!
切削工具が持っていなければいけない基本的な性質は「硬さ」と「粘り強さ」です。 前述したように、切削工具は削る材料よりも「硬い」というのが絶対条件です。 次に、切削工具は材料に接触した際、瞬間的に大きな衝撃力が作用します。このとき、切削工具の刃先が欠けると刃物として使い物になりません。 したがって、切削工具には「硬さ」と同時に大きな衝撃力に耐え得る「粘り強さ」が必要になります。人間も切削工具も「粘り強さ」が大切です!
しかし、「硬いものは欠けやすく、軟らかいものは欠けにくい」というのが世の中の決まりごとで、たとえば、ガラスは硬いですが欠けやすく、粘土は軟らかいですが欠けることはありません。いずれも切削工具としては不適です。
下図に示すように、現在、木材や金属を削るために使用される切削工具の材質は約10種類あります。その中で最も硬い材質はダイヤモンドです。 ダイヤモンドは世の中で最も硬い物質ですが、欠けやすく、一般ユーザが使用するのは難しい材質です。一方、最も軟らかい材質は炭素工具鋼です。 炭素工具鋼は鉄鋼の一種で、切削工具の中で最も軟らかいですが、欠けにくいのが特徴です。炭素工具鋼は主としてノコギリやノミ、ヤスリに使用されています。
切削工具の材質の中で、「硬さ」と「粘り強さ」の両方をバランスよく持っている(図の中央にある)のが「超硬合金」です。 このため、現在、切削工具に使用されている材質の7~8割は超硬合金です。そして、超硬合金の近い位置にあるサーメットや高速度工具鋼は超硬合金に次いでよく使用される材質です。 CBNはダイヤモンドの次に硬い材質で、近年、金属加工を行う生産現場では超硬合金に変わってよく使用されるようになってきましたが、一般ユーザには欠けやすいため使いにくい材質です。
高速度工具鋼は超硬合金よりも軟らかいですが、粘り強いため、欠けにくく、電動ドリルやボール盤など振動が大きい簡易的な工作機械(一般ユーザ)でも使用できる使い勝手の良い材質です。ただし、高速度工具鋼は温度に弱く、高温(600°C以上)になると軟らかくなるため摩耗が早くなります。

図1:切削工具の材質(硬さと粘りの強さ)
『切削工具の基礎講座』の目次
第1章 切削工具とは?
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1-1切削工具(木材や金属を削るための刃物)古代より人間は道具を作り、道具を使い、いろいろな「もの」をつくりながら進化してきました。
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1-2切削工具の材質切削工具は削る材料(木材や金属)よりも3~4倍程度の硬さが必要だといわれています。
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1-3超硬合金チップの使い分け切削工具用の超硬合金チップはP、M、K、N、S、Hの6種類があり、削る材料の材質によって使い分ける必要があります。
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1-4切削工具の切れ味の評価私たちが日常的に使用する包丁やカッター、ナイフなどの刃物の切れ味は、「刃先の鋭さ」によって評価されます。 たとえば、刃先が摩耗した(丸まった)包丁でトマトを切ると、トマトがうまく切れずにつぶれてしまいますが、刃先が鋭く尖った包丁でトマトを切ると、きれいに切れます。このように、刃先の鋭さが切れ味の評価基準になり、鋭いほど切れ味が良いという評価になります。
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1-5刃先交換式切削工具の呼称近年、刃先をねじなどの機械的な締結方法で簡便に刃(チップ)を交換できる刃先交換式の切削工具が多く使用されるようになってきました。金属加工で使用する切削工具だけではなく、日常的に使用する刃物は使用期間が長くなると、刃先が摩耗します。