工具の通販モノタロウ 工具の熱処理・表面処理基礎講座 材料不良、エッジ効果による金型の破損事例

工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第7章 工具の損傷事例と対策

7-2 材料不良、エッジ効果による金型の破損事例

前項で述べたように、工具寿命に対して材料の問題と設計の問題は重要項目であり、とくに材料では炭化物の偏析、設計に関するものではエッジ効果が原因の破損が多く発生しています。

1.炭化物の偏析が問題の破損事例

工具鋼に存在する炭化物は、合金成分によって多種多様であり、いずれも1000HV以上の硬さを有しますから、工具類の耐摩耗性維持のためには必須のものです。この炭化物は均一に分布していることが理想ですが、一般的な溶製鋼では偏析することもあり、その場合には衝撃値の劣化や焼入変形の原因になるなど不具合を生じます。

一例として図1に、破損した冷間成形用ダイス鋼の断面顕微鏡組織を示します。このダイス鋼は8%クロム(Cr)鋼で、存在する炭化物の種類は1500HV以上の硬さを有する(Cr,Fe)7C3ですから、耐摩耗性が優れています。しかも、従来のSKD11よりも炭化物が小さいため、じん性の点でも優位とされています。しかし、この破損品の顕微鏡組織を観察すると、炭化物が異常に偏析しており、しかも破損は炭化物層に沿って進展している様相が見られます。以上のことから、硬質の炭化物が異常に凝集している箇所は、き裂の進展の通路になりますから、工具類の寿命には悪影響を及ぼすことが明らかです。

図1

2.エッジ効果による破損事例

エッジ部の存在は、材料不良以上に工具寿命の低下を招きますから、最大の破損原因になります。とくに高い硬さを有する高速度工具鋼や超硬製の工具類の場合には、エッジに対する感受性が大きいので、エッジ部の存在は絶対に避けなければなりません。

一例として図2に、使用中に短時間で亀裂を生じたSKH51製のパンチを示すように、明らかにき裂は鋭角的なエッジ部から発生しており、エッジ部を鈍角的に改善すべきことが分かります。ただし、この場合は硬さが65HRCもあったため、エッジ効果が非常に大きいことも原因のひとつと考えられ、熱処理条件を変更して58~60HRC程度まで硬さを下げることも有効な改善策になります。また、高速度工具鋼よりもさらに高い硬さを持つ超硬工具の場合は、図3に示すように、この程度のエッジであっても、き裂発生の起点になっていることが分かります。

図2

図3

このエッジ効果に関連したものとして、切削加工した際のツールマークが大きな問題になることもあります。じん性に富んだ機械部品などはあまり問題になることはありませんが、硬質の切削工具や冷間鍛造用工具など使用条件が過酷なものほどよく問題になります。工具材料としては、超硬合金(WC-Co合金)や高速度鋼工具鋼など、より硬いものほどツールマークを起点とした割れ発生の事例が多く発生しています。一例として図4に、粉末ハイス製冷間鍛造用パンチにおいて、ツールマークがき裂発生の起点になった事例を示します。最近ではこれらの工具にPVDやCVDによって硬質のセラミックコーティングを施す例も増えていますが、この場合には、よりいっそうの注意を払うことが必要です。

図4

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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