切削工具の基礎講座
1-6 高速度工具鋼
金属加工で使用する切削工具の材質には超硬合金をはじめ数種類ありますが、その一つに「高速度工具鋼」があります。高速度工具鋼は英訳すると「ハイ・スピード・スチール(High Speed Steel)」になるため、一般に、「ハイ・スピード」を略して「ハイス」と呼ばれています。
そして、高速度工具鋼を示す表記には「HSS」と「SKH」の2種類があります。HSSは国際標準化機構(ISO)の表記方法で、High Speed Steelの頭文字を取ったものです。SKHは日本工業規格(JIS)の表記方法で、Steel、Kougu(工具)、High Speedの頭文字を取ったものです。Kouguはローマ字です。 したがって、国際標記はHSS、国内表記はSKHで、切削工具やカタログにはどちらかが表記されています。
高速度工具鋼の特徴は約600℃以上になると硬さが急激に低下することです。このため、高速度工具鋼を使用するときには、切削点(切削工具の刃先と金属が接触する点)が約600℃以下の条件下で使用することが前提条件となります。 木材加工では切削点が600℃に達することはありませんが、金属加工では切削点が1000℃に達することがあります。切削点の温度は直接測ることはできませんが、切りくずの色から間接的に知ることができます。 たとえば、鉄鋼材料では、切削点の温度が低い順から切りくずの色が薄黄色(300℃)、褐色、紫色、すみれ色、濃青色、淡青色(600℃以上)になります。したがって、高速度工具鋼を使用して鉄鋼材料を削るときには、切りくずの色が紫色程度の切削条件が限界といえるでしょう。
切りくずの色は「テンパカラー」といい、酸化被膜の厚さによって色が変化して見える干渉色です。切りくずに直接色が付着しているわけではありません。たとえば、CDやDVDの裏側やシャボン玉、孔雀の羽もテンパカラーの一種で、光の干渉によって色が変わって見えます。
高速度工具鋼は「タングステン系」と「モリブデン系」の2種類に大別されます。モリブデン系はタングステン系に比べて「硬さ」と「粘り強さ」が優れています。また、「タングステン系」と「モリブデン系」ともに「コバルト(Co)」を添加したものは添加しないものに比べて硬さ(耐摩耗性)が高いことが特徴です。
高速度工具鋼は超硬合金のように工作物の材質によって使い分ける必要はなく、どのような工作物材質にでも使用することができますが、前述したように、切削点の温度が600℃以下であることが必須条件です。

高速度工具製の切削工具

SKHとHSSの表記
切りくずの干渉色と切削点温度の関係

『切削工具の基礎講座』の目次
第1章 切削工具とは?
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1-4切削工具の切れ味の評価私たちが日常的に使用する包丁やカッター、ナイフなどの刃物の切れ味は、「刃先の鋭さ」によって評価されます。 たとえば、刃先が摩耗した(丸まった)包丁でトマトを切ると、トマトがうまく切れずにつぶれてしまいますが、刃先が鋭く尖った包丁でトマトを切ると、きれいに切れます。このように、刃先の鋭さが切れ味の評価基準になり、鋭いほど切れ味が良いという評価になります。
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1-5刃先交換式切削工具の呼称近年、刃先をねじなどの機械的な締結方法で簡便に刃(チップ)を交換できる刃先交換式の切削工具が多く使用されるようになってきました。金属加工で使用する切削工具だけではなく、日常的に使用する刃物は使用期間が長くなると、刃先が摩耗します。
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1-6高速度工具鋼の特徴金属加工で使用する切削工具の材質には超硬合金をはじめ数種類ありますが、その一つに「高速度工具鋼」があります。高速度工具鋼は英訳すると「ハイ・スピード・スチール(High Speed Steel)」になるため、一般に、「ハイ・スピード」を略して「ハイス」と呼ばれています。
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1-7サーメットの特徴切削工具材質の一つにサーメットがあります。サーメットは超硬合金の代替として開発された背景があり、サーメット(cermet)という名称はセラミック(ceramic)にように硬く、メタル(metal)のように粘り強いという意味を込めて、それぞれの言葉を組み合わせて名付けられたと言われています。
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1-8CBNCBNはCubic Boron Nitride(キュービック・ボロン・ナイトライド)の頭文字を表しており、結晶構造が立方晶で、ホウ素(Boron)と窒素(Nitride)が共有結合した固体です。