工具の熱処理・表面処理基礎講座

本講座では、主要工具材料である工具鋼の種類と、それらに適用されている熱処理(主に焼入れ焼戻し)および表面処理(主にPVD・CVD)について詳細に解説します。
第1章 工具に用いられる材料

1-2 工具鋼の種類と分類

工具鋼は切削工具や各種金型に使用されるもので、用途によって要求される特性が異なるため、表1に示すように、JISでも多くの鋼種が規定されています。合金元素として炭素のみを含有する炭素工具鋼(JIS G 4401)、金型によく用いられている合金工具鋼(JIS G 4404)、バイトやドリルによく用いられている高速度工具鋼(JIS G 4403)が規定されています。表2に主な鋼種の化学成分を示します。

表1

表2

これらJISで規定しているすべての工具鋼の表示はSK(SはSteel:鋼、KはKogu:工具の頭文字)から始まり、このSKに続けて記号や数字を付け加えることによって、用途または合金元素の種類や量が区分されています。

(1) 炭素工具鋼

炭素工具鋼はJISの記号ではSKで表示され、0.6~1.5%の炭素(C)が添加されています。工具鋼の中では最も安価ですが、焼入性が悪いため、金型に用いる場合には低面圧用や小型のものに限られます。

(2) 合金工具鋼

合金工具鋼は炭素以外の合金元素を添加して焼入性および耐摩耗性を高めたものであり、種類が多く冷間成形用と熱間成形用に分類されています。

JISの記号ではSKの後に用途別の記号を付けてSKS(Special:特殊)、SKD(Die:金型) SKT(Tanzo:鍛造)に分類されています。冷間成形用の合金工具鋼は、炭素量は0.9~1.5%、炭素以外の合金元素はCrを基本としてW、MoおよびVが適宜添加されており、それらの含有量は0~10数%の多岐にわたっています。

SKSはSKDに比べて添加されている合金元素の種類や量は少なく、主にタップやゲージ類によく用いられています。SKDは耐摩耗性と焼入性が良好ですから、広範囲の金型に最も多く用いられています。冷間成形用金型にはSKD11が用いられることが多く、じん性重視の場合にはSKD12のほうが有利です。

熱間成形用に用いられる合金工具鋼は、冷間成形用よりも炭素含有量が少なく、SKDの中でも0.3~0.6%程度のものが用いられています。熱間プレス金型用やダイカスト金型用にはSKD61を主体としてSKD4、SKD6、SKD62などが用いられていますが、これらの改良型も多く販売されています。

(3) 高速度工具鋼

高速度工具鋼は、従来からドリルやバイトなど切削工具によく用いられていましたが、最近では耐摩耗性を重視した金型類への適用事例も増加しています。JISではSKH(High speed:高速)で表示されており、通称ハイスとも呼ばれています。工具鋼のなかでは最も耐摩耗性が優れていますが、多種多量の合金元素が添加されているため高価です。

高速度工具鋼には必ずCrが約4%添加されており、CrのほかにW とV を含有しているW系のものと、W、Mo、Vを含有しているMo系のものとに分類することができます。

また、通常の高速度工具鋼と同等の組成を持つ粉末ハイスが金型に用いられています。粉末ハイスとは、焼結技術によって製造されるもので、高価ですが従来の溶製ハイス(SKH)にはない多くの特徴をもっています。すなわち、溶製ハイスに比べて炭化物が微細であること、炭化物の形状や分布状態が均一であることなどが特徴として挙げられます。

執筆: 仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『工具の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 工具に用いられる材料

第2章 炭素工具鋼、合金工具鋼の焼入れ・焼戻し

第3章 高速度工具鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 工具を対象とした表面処理の種類と適用

第5章 PVD、CVDの種類と工具への適用

第6章 工具を対象としたPVD、CVDによる硬質膜の種類と適用

第7章 工具の損傷事例と対策

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