機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

7-3 浸炭/浸炭窒化処理の種類と適用

浸炭とは、炭素含有量の少ない鋼を浸炭剤中でオーステナイト領域の高温(900℃位)に加熱し、表面から炭素(C)を拡散浸透させることです。浸炭処理した鋼を焼入れすれば、浸炭層はマルテンサイトになりますから耐摩耗性が著しく向上し、内部の非浸炭個所は硬化しないためじん性に富んでいます。

浸炭窒化とは、炭素と同時に窒素(N)を拡散浸透させる処理で、ガスを用いる方法では、浸炭性ガスにアンモニアガス(NH3)を数10%混合した雰囲気を用います。窒素を拡散させる必要があるため、処理温度は浸炭温度よりは低い850℃位であり、耐摩耗性と同時に耐疲労性を重視する部品によく利用されています。

これらの処理は歯車など機械部品をはじめ、自動車部品から小物の事務機部品などに広く適用されています。浸炭や浸炭窒化処理が適用される鋼種としては、機械構造用鋼のうち炭素量が0.1~0.2%のもの(S20C、SCM415など肌焼鋼)が該当し、小物部品の場合にはSPCC(冷間圧延炭素鋼板)もよく使用されています。

浸炭法は浸炭剤の種類によって、固体浸炭、液体浸炭およびガス浸炭に分類されています。固体浸炭とは、木炭を主成分とする浸炭剤と処理物をともに鋼製の浸炭箱に詰めて密閉し、所定の温度で加熱する方法です。促進剤として炭酸バリウム(BaCO3)や炭酸ソーダ(NaCO3)を20~30%混ぜます。

液体浸炭とは、シアン塩を主成分とする塩浴中に処理物を浸漬して炭素を拡散させる方法で、この場合は窒素も浸透しますから、実質的には浸炭窒化です。ガス浸炭とは、現在の浸炭処理の主流で、変成ガス法と分解ガス法が工業的に広く採用されています。最近では、粒界酸化(内部酸化)を生じない健全な浸炭層が得られることから、真空浸炭の適用例も増加しています。

変成ガス法は図1に示すように、プロパン(C3H8)またはブタン(C4H10)と空気を混合させ、1050~1100℃で変成した雰囲気を用いて浸炭させます。変成ガスとしては、主に一酸化炭素(CO)、水素(H2)および窒素(N2)が生成され、このうちのCOがFeと反応して浸炭が進行します。変成ガスのままでは炭素濃度が低いため、エンリッチガス(増炭用ガス)としてプロパンガスやブタンガスが用いられています。

図1 吸熱型変成ガス(RXガス)による浸炭工程の概略

図1 吸熱型変成ガス(RXガス)による浸炭工程の概略

分解ガス法は、図2に示すように、メタノール(CH3OH)など有機系液体を直接処理炉に滴下し、その熱分解ガスで浸炭します。分解ガス法の特徴は変成炉を必要としないことであり、浸炭剤(メタノール)を処理炉内に滴注しますから、別名滴注式浸炭または滴下式浸炭ともよばれています。メタノールの分解ガスは炭素濃度が低いため、エンリッチガスとしてプロパンガスやブタンガスが利用されています。なお、開発初期のころは、増炭剤としてベンゼンやイソプロピルアルコールを数%添加した浸炭剤も利用されていました。

図2 熱分解ガスによる浸炭(滴注式浸炭)の概略

図2 熱分解ガスによる浸炭(滴注式浸炭)の概略

図3に示すように、浸炭硬化層深さには全硬化層深さと有効硬化層深さがあります。有効硬化層とは、焼入れのまま、または200℃を超えない温度で焼戻しした硬化層の表面から、550HVの位置までの距離のことです。この550HVはJIS G 0557でも規定しているものであり、金属組織では50%マルテンサイトにほぼ一致します。

図3 浸炭焼入品の硬さ推移曲線

図3 浸炭焼入品の硬さ推移曲線

全硬化層深さとは、硬化層と生地の物理的または化学的性質の差異が区別できない位置までの距離をいい、硬さまたはマクロ組織で判定します。図4に示すように、浸炭焼入れ後の基本的な金属組織は、炭素濃度の高い表層付近はマルテンサイトですが、炭素濃度の低い内部に向かって、微細パーライトやフェライトも混在してきます。

図4 浸炭焼入れした冷間圧延鋼板(SPCC)の断面顕微鏡組織

図4 浸炭焼入れした冷間圧延鋼板(SPCC)の断面顕微鏡組織

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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