工具の通販モノタロウ 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 機械部品の破損事例(めっき品のトラブル)

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-9 機械部品の破損事例(めっき品のトラブル)

機械部品は主に耐食性を付加するために、亜鉛(Zn)めっきをはじめ種々のめっきの適用事例が多いのですが、同時にめっき品に発生する不具合も多々あります。めっき品の不具合としては、肌荒れや膨れ、しみや変色など多くの種類があり、その原因としては、単純なめっき条件や前処理工程が問題の場合もありますが、めっき前の処理工程も関与していることが圧倒的に多いようです。

すなわち、焼入れ焼戻しなど熱処理した際に、表面は酸化や脱炭を生じますから、一般にはめっき前に酸洗処理が行われています。その際に不均一な酸化層や脱炭層が存在している場合には、酸洗時の酸による溶解速度も均一ではありませんから、強い酸洗を行えば肌荒れを生じます。

一例として、図1に、肌荒れしたZnめっき品(焼入焼戻ししたSCM435製ボルト)の表面状態および断面組織を示します。Znめっき膜をはく離したあとの表面を観察すると、滑らかな箇所と凹んだ箇所が存在しており、肌荒れの状況がよく分かります。この断面組織を観察すると、滑らかな箇所には脱炭層(白色部)が存在しており、その周辺は溶解して窪んでいる状況がよく分かります。すなわち、脱炭層であるフェライト(α鉄)に対して、その周辺は酸に溶解しやすいソルバイト組織ですから、強酸を用いれば当然生じる現象です。

図1 調質後亜鉛めっきしたSCM435に生じた肌荒れ事例(めっき膜除去後撮影)

図1 調質後亜鉛めっきしたSCM435に生じた肌荒れ事例(めっき膜除去後撮影)

図2は、焼入れ焼戻ししたS45C製のボルトにおいて、Znめっき後に発生した変色箇所の断面を示したものです。ただし、このときの変色は納品した際には全く見られなかったものであり、保管中に変色が進行したものです。この場合は、焼入れ加熱によって生じた内部酸化(粒界酸化)と酸洗との相互作用によって生じた不具合です。ボルト類は加熱雰囲気として変成ガスを用いた連続炉を使用することが多く、処理物や雰囲気の状況によっては内部酸化を生じます。この内部酸化層はめっき前の酸洗によって、その周辺部よりも容易に溶解しますから、この箇所にまでめっき液が侵入し、これが保管中に滲み出してZnと反応することによって変色したものと考えられます。このことは、断面組織からも明らかなように、本来のめっき膜の下部に生じている内部酸化層の結晶粒界に沿って、Znめっき膜が形成されていることからも予想できます。

図2 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた変色事例

図2 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた変色事例

内部酸化層の領域が広い場合には、図3に示すようにめっき後の表面に膨れを生じることがあります。この場合は閉じ込められためっき液によって溶解が進行して、めっき膜直下が空洞になり、これが膨れの原因になったものと考えられます。すなわち、Znめっき膜の有している残留応力は圧縮残留応力ですから、めっき膜の下部が空洞になることによって、その個所に膨れを生じます。

図3 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた膨れ事例

図3 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた膨れ事例

また、図4に、めっき処理が原因で発生した不具合として、S45C製ボルトに生じた膜内はく離の事例を示します。この場合も当初は、めっき膜と生地との界面からの膨れであり、そのためにはく離したことが予想されました。しかし、断面組織を観察したところ、めっき中に電流遮断が生じたために発生したと思われる膜内剥離であることが判明しました。なお、この場合の表面現象としてははく離だけでなく、多数の膨れも観察されており、いずれも熱処理工程には無関係のものでした。

図4 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた膜内はく離事例

図4 調質後亜鉛めっきしたS45C製ボルトに生じた膜内はく離事例

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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