機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第6章 機械部品に対する表面処理の役割

6-3 着色と表面処理

着色は、表面処理の種類によっては代表的な利用目的であり、図1に示すように、着色法には塗装、印刷およびPVDなど物理的方法、薬品による表面反応や加熱による酸化を利用する化学的方法、電気めっきや陽極酸化など電気化学的方法があります。

図1 金属の着色法

図1 金属の着色法

色には図2に示すように、光源から照射される光の波長による光源色と物体色があり、表面処理による着色は後者に該当します。色には三原色があり、この三つの色を混ぜ合わせることによってすべての色を作ることができます。ただし、三原色の種類は光源色と物体色とでは異なります。光源色の場合には光の三原色といい、赤(R)、緑(G)および青(B)です。これらの色の光を混ぜ合わせていくと明るくなっていき、三色すべてが混ざると白になります。ちなみに、パソコン用カラーディスプレーやカラーテレビはこの三原色を使用しています。物体色の場合には色材の三原色といい、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)です。この場合には混ぜ合わせていくと暗くなっていき、三色すべてが混ざると黒になります。

図2 色の種類

図2 色の種類

物体色の種類には、物体を透過した光の波長による透過色と物体の表面から得られる表面色があります。また、表面色には、(1)物体表面から反射した光の波長による色、(2)物体表面から散乱した波長による色、(3)光の干渉による色、の三種類があり、このうち色材そのものの色は反射した光の波長による色です。

なお、光の波長領域については明確な規定はありませんが、色の判別が可能な可視光の領域は一般的には380~780nmとされており、それより短波長側は紫外線、長波長側は赤外線と呼ばれています。

物質表面に照射された光は、その物質に応じて反射する波長と吸収する波長があります。例えば、色材が赤であれば長い波長(700nm位)の赤系の光が反射し、短い波長(450nm位)の青系の光は吸収しますから、赤であることを認識することができます。ちなみに、塗装や印刷による着色は、この反射した光の波長による色を見ているのです。

また、表面に光の波長より小さい微粒子が存在したときなど、散乱した光の波長による色の場合は、一般には波長が短い光ほど散乱しやすいので青色に見えます。例えば、空の青色は、空気粒子によって短い波長の光が散乱するための現象です。

物質の表面に非常に薄い膜がある場合に見られる色は干渉色と呼ばれ、図3に示すように、膜の表面からの反射光と膜内を屈折・透過して物質との界面から反射する光との干渉によるものです。陽極酸化、化成処理、PVDなどによる極薄膜の着色は、この光の干渉によるものです。

図3 干渉による表面色の原理

図3 干渉による表面色の原理

例えば、ステンレス鋼、チタン、鉄などは酸化雰囲気中で加熱すると、加熱温度によって色が変わりますが、これも干渉色で、これは表面の酸化物層の厚さが異なることによるものですし、膜厚が厚くなって光が膜内を透過できなくなれば、単純な反射した光の色(色材の色)になってしまいます。ちなみに、純鉄や合金元素の少ない機械構造用鋼などは、200~250℃位での加熱では黄色、300~350℃位では青色の酸化皮膜が形成されます。この干渉色の利用を目的の一つとした熱処理の名称は、ブルーイング処理ともいわれています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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