機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-1 機械材料の種類と分類

機械を構成している材料は、総称して機械材料と呼ばれています。機械材料は図1のように、金属材料、非金属材料および複合材料に分類できます。金属材料は鉄鋼材料と非鉄金属材料に、非金属材料は無機材料と有機材料に分けられ、さらにそれらは細分化されています。

非鉄金属の主体はアルミニウムや銅とその合金で、無機材料としてはセラミックス、有機材料としてはプラスチックが大勢を占めています。また、最近は複数の材料を組み合わせた複合材料もよく利用されています。

図1 機械材料の分類

金属材料は比較的加工性が良好であり、高強度が得られますから、機械部品に最も適した材料です。セラミックスやプラスチックが機械部品に使用される主な理由は、図2に各種材料の密度を示すように、金属材料に比べて軽量であることです。 金属材料の中にもアルミニウムやチタンのように軽量の金属もありますが、これらは耐摩耗性や耐圧縮強さの点ではセラミックスには到底適いません。また、プラスチックはセラミックスよりも軽いので、製品や部品の軽量化を図るべく材料として期待されています

図2 各種材料の密度

しかし、セラミックスは衝撃に弱いこと、プラスチックは機械的強さや耐熱性が劣るなど、機械部品として利用するためには制約が多々あります。また、図3に各種材料の熱膨張係数を示すように、セラミックスの使用中の温度変化に対する寸法変化は、 金属材料よりも小さいので機械部品としては有利ですが、線膨張係数の大きいプラスチックは、製品や部品の使用環境によっては適用不可になります。しかも、図4に示すように、プラスチックは金属材料やセラミックスに比べて熱伝導が非常に悪いので、環境によっては高温になりやすいことも欠点の一つとして挙げられます。

図3 各種材料の線膨張係数

図4 各種材料の熱伝導率

セラミックスの耐衝撃性を改善したものとして、原料のセラミック粒子を微細化したファインセラミックスが利用されています。ファインセラミックスには酸化物系のアルミナ(Al2O3)や ジルコニア(ZrO2)、非酸化物系の窒化ケイ素(Si3N4)などがあります。

製品の軽量化を最重視する場合には、プラスチックを利用することは最も有効ですが、前述のように耐熱性および機械的強度に問題があるため、機械部品への適用は困難でした。これらの課題を改善したものとして、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)が開発されており、フッ素樹脂(PTFE)やポリカーボネイト(PC)などの適用事例が増えています。

 機械的性質(弾性率など)の改善に関しては、ガラス繊維や炭素繊維で強化した複合材料が開発されて、小型船体や住宅設備など広範囲の分野で利用されています。ガラス繊維強化プラスチックはGFRP(Gass Fiber Reinforced Plasutics)、 炭素繊維強化プラスチックはCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plasutics )と呼ばれており、その需要は今後も増加することが確実です。

金属(主にアルミニウム)を基材とした炭素繊維やセラミック粒子との複合材料も開発されています。炭素繊維強化金属はCFRM(Carbon Fiber Reinforced Metal)と呼ばれており、この場合の強化目的は高強度化です。 また、セラミック粒子としてはAl2O3など酸化物やSiCなど炭化物が利用されており、この場合の強化目的は耐摩耗性や耐熱性を向上させることです。

表1に金属材料、セラミックスおよびプラスチックを選定するための目安として、利用する際に比較すべく重要な特性をまとめましたから参考にしてください。

表1 金属材料、セラミックス、プラスチックの特性比較



執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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