工具の通販モノタロウ 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 マクロ観察による破壊形態の確認

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-5 マクロ観察による破壊形態の確認

破壊原因を特定するためには、破面を観察することは当然ですが、いきなり走査型電子顕微鏡(SEM)によってミクロ観察するのではなく、はじめにマクロ観察によって破面の状況を十分に把握しなければなりません。マクロ観察とは、目視やルーペによる破面観察のことで、き裂の発生起点を確認するとともに、破面の状態から負荷応力のかかり方まで予め把握することができます。ただし、負荷応力のかかり方は一種類だけとは限らず、しかもき裂の進展過程で変化することもあります。すなわち、マクロ破面からは、亀裂の発生起点だけでなく、亀裂の進展方向や進展の速度、最終破断面などを特定することも可能です。

き裂の発生起点は、多く場合は最大応力が付加される表面ですが、浸炭焼入れや高周波焼入れなどで表面を強化した製品では内部のこともあります。なお、起点は一点とは限らず、切欠きの有無や製品形状などによって複数存在することもあります。

一例として図1に、起点が一か所のものと、多数存在する例を示します。この多数存在する製品の場合は、き裂発生個所がエッジ箇所であり、しかも機械加工によるツールマークの影響を強く受けています。すなわち、この個所は多数の応力集中箇所が存在することになり、複数個所からき裂が同時発生したものと思われます。

図1 マクロ破面にみる起点

図1 マクロ破面にみる起点

さらに、起点からき裂進展方向に向かってラチェットマークとよばれる多数の段差模様が観察されます。ラチェットマークとは起点に生じるもので、負荷応力によって瞬間的にき裂が発生した箇所であり、ここに応力集中したことが分かります。応力集中の状況は、ラチェットマークの長さや数によって推定することができます。すなわち、ラチェットマークが長く数が多い場合には、材料の強度に対して負荷応力が過大であることを示しており、応力集中箇所の改善や高強度材への変更などを検討しなければなりません。

疲労破壊したものであれば、破面のマクロ観察によって、き裂の進展方向と最終破断面を確認することができます。一例として図2に、疲労破壊したボルトのマクロ破面を示すように、き裂の発生起点、き裂の進展方向および最終破断面を判断することができます。

図2 疲労破壊したS45C製ボルト(M15)のマクロ破面の一例

図2 疲労破壊したS45C製ボルト(M15)のマクロ破面の一例

進展方向に対して直角方向には木の年輪状または貝殻状の模様が観察されますが、この模様は図3に示すように、砂浜の波打ち際の模様に似ていることから、ビーチマークとよばれています。この模様の間隔が繰返しの負荷応力によってき裂が進展した長さを示しています。また図2の場合には、破面全体に対して1/6~1/5程度の最終破断面が観察され、このボルトは使用条件(負荷応力の強さなど)に対して、十分な安全率を見込まれていることが分かります。

図3 疲労破面にみられるビーチマーク

図3 疲労破面にみられるビーチマーク

図4に、使用条件に対してまったくの強度不足で破壊したボルトの破面を示します。この場合、き裂の発生起点を特定することは困難で、外周に沿って半周近くの長い領域が起点になっていることから、切欠きの存在が多大な影響を及ぼしていることが分かります。また、疲労破面特有のビーチマークは不明瞭であり、しかも最終破断面が破面全体の約50%を占めています。以上の観点から、このボルトは現状の使用条件に対して不適であることが明白であり、根本的に見直さなければなりません。

図4 疲労破壊したボルトのマクロ破面の一例

図4 疲労破壊したボルトのマクロ破面の一例

図5に示した破面事例は、両振り応力によって二方向からき裂が進展しているものと、ねじり応力によって破壊したものです。二方向からき裂が進展している場合には、最終破断面が材料の内部に位置していること、ねじり応力によって破壊した破面の場合には、き裂は円弧を描くように進展していることがよく分かります。

図5 マクロ観察による破面事例

図5 マクロ観察による破面事例

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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