工具の通販モノタロウ 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 鉄鋼の冷却速度と特性の関係(連続冷却変態)

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-6 鉄鋼の冷却速度と特性の関係(連続冷却変態)

前回解説した鉄―炭素系の平衡状態図は、鉄鋼材料を扱う者にとっては重要ですが、熱処理作業においては連続冷却変態曲線のほうがもっと重要です。 平衡状態図は加熱や冷却には無関係のもので、各温度での平衡状態の組織を表したものであり、熱処理では完全焼なまし過程の組織変化に類似しています。ところが、オーステナイト領域から冷却すると、冷却速度によって、得られる組織は異なり、しかも平衡状態とはまったく異なった温度で変態します。

このように、オーステナイト状態に加熱した鋼を連続的に冷却したときの変態線図は、連続冷却変態曲線またはCCT(Continuous:連続、Cooling:冷却、Transformation:変態)曲線といいます。曲線がC字の形をしていることからC曲線ともよばれています。 炭素鋼や機械構造用合金鋼の焼なまし、焼ならしおよび焼入れによって得られる硬さはこの曲線が目安になり、個々の曲線から所定の硬さを得るための焼ならし時の冷却速度や焼入れ時の臨界冷却速度を推定することもできます

機械構造用合金鋼におけるCCT曲線の模式図を図1に示します。縦軸が温度、横軸が時間(対数目盛)で表し、冷却速度と得られる硬さの関係が分かるようになっています。

図1 機械構造用合金鋼における連続冷却変態(CCT)曲線の模式図

図1中の記号・番号の意味

  • 1.変態曲線の名称
  • Fs:オーステナイトからフェライトへの変態開始線
  • Ps:オーステナイトからパーライトへの変態開始線
  • Pf:パーライトへの変態終了線
  • Ms:オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始線
  • Mf:マルテンサイトへの変態終了線
  • Ae1,Ae3:参考にまで示したもので、それぞれ平衡状態でのA1、A3変態点
  • 2.金属組織の名称
  • γ:γFe(オーステナイト)
  • α:αFe(フェライト)
  • P:Pearlite(パーライト)
  • B:Bainite(ベイナイト)
  • M:Martensite(マルテンサイト)
  • 3.冷却曲線の意味
  • 実線:1冷却速度が最も遅い ⇒ 2 ⇒ 3 ⇒ 4冷却速度が最も速い
  • 破線:5上部臨界冷却速度、 6下部臨界冷却速度

すなわち、冷却速度が遅いほど得られる硬さは低く、冷却速度が速くなるほど硬さが高くなります。図中に示している4本(1~4)の冷却曲線に熱処理の名称を当てはめてみると、最も冷却速度が遅い曲線(1)は完全焼なまし、その次の曲線(2)は焼ならしに該当し、 両者とも室温での金属組織は、図2に示すようなフェライト(α)とパーライト(P)の混合組織になることが分かります。 ただし、冷却速度1よりは冷却速度の速い2のほうが結晶粒度は小さくなり、パーライト量が増加します。両者とも、Fs点に達するまでの組織は過冷オーステナイト(γ)であり、Fs点でフェライトに、Ps点でパーライトに変態開始し、Pf点で変態終了します。

図2 S45Cのフェライト(白色部)+パーライト(着色部)組織〔冷却曲線2の場合〕

それよりも冷却速度の速い2本の曲線(3、4)は焼入れに該当します。最も速い曲線(4)は室温までの間に通過する変態点はMs点とMf点のみですから、得られる金属組織はマルテンサイト単相です。 なお、この変態点のMはマルテンサイト(Martensite)、sは開始(start)、fは終了(finish)を意味しています。もう一方の曲線(3)は、Ms点まで到達する前にB(ベイナイト)への変態開始線(Bs点)を通過していますから、室温での金属組織はマルテンサイトとそれより軟質のベイナイトもしくはパーライトとの混合組織になり、焼入硬さはマルテンサイト単相よりは低くなります。

一例として、図3にS45Cの冷却曲線3および4のときに生じる顕微鏡組織を示します。冷却曲線4の場合はマルテンサイト単相ですが、冷却曲線3の場合はマルテンサイトと微細パーライト(黒色部)との混合組織になっていることが分かります。

図3 S45Cのマルテンサイト組織

図1中に示した点線の冷却曲線5と6は、焼入れに関する臨界冷却速度です。冷却曲線5はマルテンサイト単相組織を得るための最も遅い冷却速度を示しており、この冷却速度は上部臨界冷却速度といいます。 また、曲線6はMs点を通過しなくなる(マルテンサイトが得られなくなる)冷却速度を示しており、この曲線は下部臨界冷却速度と呼ばれています。

なお、CCT曲線はCrやMoなど焼入性を高める合金元素の含有量が多い鋼ほど、また加熱条件としてはオーステナイト化温度が高いほど、曲線全体が右側に移行しますから、冷却速度が遅くても高い硬さが得られるようになります。このことは、炭素鋼よりは合金鋼のほうが冷却速度は遅くても焼入れ硬化し易いことを示しています。 ちなみに冷間金型に用いられているSKD11は、Crを約12%含有していますから、CCT曲線はかなり長時間側にあります。そのため、空冷でも焼入れ可能とのことで、この材料は空気焼入鋼とも称されています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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