機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-8 機械部品の破損事例(疲労破壊)

疲労破壊とは、繰返し負荷される荷重によって破壊するもので、とくに機械部品には最も多く発生するものです。疲労破壊の場合は、はじめに目視やルーペなどのマクロ観察によってき裂の発生の起点、亀裂の進展方向、最終破断箇所を判定します。

図1は、折損したS45C製ボルト(M16)について、破面の全景、マクロ破面(き裂の起点部付近)およびミクロ破面(最終破断部)を示したものです。破面の全景からは、画像の左側が亀裂発生の起点であり、右側外周部が最終破断部であることが分かります。き裂の起点部付近のマクロ破面から、き裂の起点部には明確なラチェットマークが観察され、矢印の方向にき裂は進展していることが明らかです。

図1 S45C製ボルト(M16)の疲労破壊事例

図1 S45C製ボルト(M16)の疲労破壊事例

破面には、き裂の進展方向に直角に貝殻状の模様(ビーチマーク)が観察され、これは破面全体の8割位を占めていました。最終破断面は残りの2割位ですから、このボルトは使用中に負荷される応力に対して十分に余裕のある引張強さを持っていたこと、き裂の進展は1方向のみですから、曲げの力による破壊であると判断できます。また、最終破断部を拡大すると、代表的な延性破面であるディンプル模様ですから、製品の特性にも問題はないと思われます。以上のように、本品は疲労破面領域が非常に広く、最終破断部は小さいので、最終破断に至る前に余裕もって部品交換にて対処できるものと思われます。

図2は、折損したステンレス鋼(SUS304)製のコイルばねについて、マクロ破面の全景および最終破断部のミクロ観察結果を示したものです。マクロ破面からは、両振りの負荷応力によって生じる2箇所に起点が存在し、そこから中央部に向かってき裂が進展している様相が明瞭に分かります。すなわち、最終破断面は二方向からの疲労破面に挟まれるように存在しており、しかも破面中に占める面積は2~3割程度ですから、ほぼ妥当な疲労破面といえます。両方の疲労破面内には明瞭なビーチマークが観察され、両者の占める割合はかなり異なりますが、これは負荷応力の強さの違いであると思われます。また、ミクロ観察によると、最終破断部はディンプル破面であり、本製品は延性の点ではまったく問題ないものと判断できます。

図2 SUS304製コイルバネの疲労破壊事例

図2 SUS304製コイルバネの疲労破壊事例

図3は、液漏れを生じたSUS304製薄肉フレキシブルチューブについて、漏れ箇所の破面を示したものです。マクロ破面の様相から、外周側から内周側に向かってき裂は進展していることが明らかであることから、外周側の起点部付近(A部)、肉厚中央部(B部)および内周側の最終破断部(C部)のミクロ観察を行っています。

ミクロ破面からは、外周側の起点部付近の破面は擬へき開破面を呈しており、き裂は明らかに内周側に向かって進展している様相が見られます。また、肉厚中央部のミクロ破面においては明瞭なストライエーションが観察され、小さな振幅で亀裂が進展したものと思われます。さらに、最終破断部に該当する内周側のミクロ破面においても、ストライエーションはそのまま継続しており、破断に至る最終箇所まで疲労破壊であることが分かりました。すなわち、この製品に負荷される応力は非常に小さいが、周期の短い振動が継続的に負荷されていることが明らかであるので、使用中の振動を防止すべく取付時の固定法を工夫することが最も有効な対処法と思われます。

図3 SUS304製薄肉フレキシブルチューブの疲労破壊事例

図3 SUS304製薄肉フレキシブルチューブの疲労破壊事例

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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