機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

7-8 溶融めっきの原理と適用

溶融めっきとは、溶融金属中に処理物を浸漬して表面に溶融金属の皮膜を形成させるものです。溶融めっき膜には、融点の低い金属が用いられており、最も需要が多いものは亜鉛(Zn)です。その他にアルミニウム(Al)、亜鉛アルミニウム合金(Zn-Al)、すず(Sn)、はんだなどがあります。

溶融Znめっきと溶融Alめっきについては、JISでも種類、記号、試験方法および作業標準を規定しています。表1に示すように、溶融Znめっきは、めっきの記号はHDZで、1種として2種類、2種として付着量の異なる5種類を規定しています。また、表2に示すように、溶融Alめっきは、めっきの記号はHDAで、3種類を規定しています。いずれも、その後に付着量などを示す記号または番号や数値が付けられています。

表1 JISによる溶融亜鉛めっきの種類と記号〔JIS H 8641:溶融亜鉛めっき〕 より

種類 記号 付着量〔g/m2 硫酸銅
試験回数
平均膜厚
〔μm(参考)〕
適用例
1 種 HDZ A 4 回 28~42 厚さ5mm以下の鋼材・鋼製品、鋼管類、径12mm以上のボルト・ナット及び厚さ2.3mmを超える座金類
HDZ B 5 回 35~49 厚さ5mmを超える鋼材・鋼製品、鋼管類及び鋳鍛造品類
2 種 35 HDZ 35 350 以上 49以上 厚さ1mm以上2mm以下の鋼材・鋼製品、径12mm以上のボルト・ナット及び厚さ2.3mmを超える座金類
40 HDZ 40 400 以上 56以上 厚さ2mmを超え3mm以下の鋼材・鋼製品及び鋳鍛造品類
45 HDZ 45 450 以上 63以上 厚さ3mmを超え5mm以下の鋼材・鋼製品及び鋳鍛造品類
50 HDZ 50 500 以上 69以上 厚さ5mmを超える鋼材・鋼製品及び鋳鍛造品類
55 HDZ 55 550 以上 76以上 過酷な腐食環境下で使用される鋼材・鋼製品及び鋳鍛造品類

硫酸銅試験:硫酸銅溶液中に約60秒浸漬し、これを規定回数繰返す。硫酸銅試験1回当たりの浸漬で、8μm程度の厚さが減少する。

表2 JISによる溶融アルミニウムめっきの種類と記号〔JIS H 8642:溶融アルミニウムめっき〕 より

種類 記号 厚さ 〔 μm 〕*1 付着量 〔 g/m2 備考
1種 HDA 1 60 以上 110 以上 耐候性を目的とするもの
2 種 HDA 2*2 70 以上 120 以上 耐食性を目的とするもの
3 種 HDA 3 合金層厚さ50 以上 耐熱性を目的とするもの
HDA3-D*3 合金層厚さ70 以上

*1:めっき厚さはアルミニウム層厚さと合金層厚さ合計とする。
*2:2種におけるアルミニウム層厚さは、原則として10μm以上とする。
*3:特に指定のある場合には、加熱拡散処理を行うことができる。

溶融Znめっきは鋼の防錆を目的として利用されており、他の表面処理に比べて防錆期間が長く経済的にも有利な表面処理です。また、処理物の形状や大きさの制約をほとんど受けませんから、小物部品から大型部品まで広範囲の分野で利用されています。

溶融Znめっきには、受託加工業界において処理されている一般構造物やその金具を対象としたものと、製鋼メーカーやその関連業界で連続式溶融亜鉛めっきラインによって処理されている溶融亜鉛めっき鋼板があります。前者の構造物としては、鋼製のボルトやナット、架線用金具、大型構造物などに適用されており、後者のZnめっき鋼板は洗濯機や冷蔵庫など家電製品の外内板、屋根や壁など建材、自動車車体などによく利用されています。

一般的なボルトやナットなどに適用されているZn膜の膜厚は50μm以下ですが、過酷な腐食環境化で使用される鋼材や製品の場合は、80μm以上のものが使用されています。一般的なZn浴の温度は440~470℃で、処理物の寸法や材質、要求される付着量によって決定します。一例として図1に、溶融ZnめっきしたSS400の断面顕微鏡組織を示します。めっき層は純亜鉛(Zn)層と合金層(Zn-Fe合金層)から構成されています。

図1 溶融亜鉛めっきしたSS400の断面組織

図1 溶融亜鉛めっきしたSS400の断面組織

Znの付着量や純Zn層と合金層の生成比率は、めっき浴の温度、浸漬時間、処理物の表面粗さや寸法、化学成分などによって影響を受けます。処理温度は高いほど、浸漬時間は長いほど付着量が増加し、同時にZn-Fe合金層の割合も増加します。なお、合金層が最表面にまで達すると、表面粗さが大きく表面の光沢がなくなりますが、これは外観だけの問題であり、防錆効果には影響ありません。とくにその上から塗装する場合は、表面粗さの大きいほうが密着性の点で有利ですから、溶融Znめっき後に加熱炉を通過させてZn-Fe合金層を積極的に生成させる合金化溶融Znめっきも行われています。この合金化溶融Znめっきは自動車車体、家電製品、建材などに多用されています。

溶融Alめっき層は耐食性や耐熱性が優れているため、徐々に適用分野が広がっています。この場合の防食機構は溶融Znめっきの犠牲防食とは異なっており、表面の酸化アルミ(Al2O3)生成にともなう不動態化によるものです。このAl2O3の生成は、とくに耐高温酸化性を大幅に向上させますから、溶融Alめっき鋼板は自動車のマフラーや排気系、加熱をともなうような家電製品に用いられており、連続溶融めっきラインで製造されています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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