機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第4章 ステンレス鋼とその熱処理

4-1 ステンレス鋼の種類と用途

ステンレス鋼はCrを11%以上含有した鋼で、金属組織の違いによって、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)、フェライト系、マルテンサイト系および析出硬化系に分類されています。JIS G 4303(2005)『ステンレス鋼棒』では61種類を規定しており、そのうちの35種類はオーステナイト系です。主なステンレス鋼のJIS記号と化学成分を表1に示します。

表1 主なステンレス鋼の記号と化学成分(JIS G 4303より抜粋)

 
名称 種類の記号主な合金元素の種類と添加量(%)
C Ni Cr Mo Cu その他
オーステナイト系 SUS303 0.15以下 8.00~10.00 17.00~19.00 S 0.15以上
SUS304 0.08以下 8.00~10.00 18.00~20.00
SUS304L 0.03以下 9.00~13.00 18.00~20.00
SUS310S 0.08以下 19.00~22.00 24.00~26.00
SUS316 0.08以下 10.00~14.00 16.00~18.00 2.00~3.00
SUS321 0.08以下 9.00~13.00 17.00~19.00 Ti 5×C%以上
SUSXM7 0.08以下 8.50~10.50 17.00~19.00 3.00~4.00
オーステナイト・フェライト系 SUS329J1 0.08以下 3.00~6.00 23.00~28.00 1.00~3.00
SUS329J4L 0.03以下 5.50~7.50 24.00~26.00 2.50~3.50 N 0.08~0.30
フェライト系 SUS410L 0.03以下 11.00~13.50
SUS430 0.12以下 16.00~18.00
SUS447J1 0.010以下 28.50~32.00 1.50~2.50 N 0.015以下
マルテンサイト系 SUS410 0.15以下 11.50~13.50
SUS420J2 0.26~0.40 12.00~14.00
SUS440C 0.95~1.20 16.00~18.00
析出硬化系 SUS630 0.07以下 3.00~5.00 15.00~17.50 3.00~5.00 Nb 0.15~0.45
SUS631 0.09以下 6.50~7.75 16.00~18.00 Al 0.75~1.50
(1) オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼は、Crのほかに数%以上のNiを含有しており、全般的には他の系よりも耐食性が優れています。オーステナイト系ステンレス鋼の代表であり、使用量の最も多いのはSUS304です。ちなみに、18-8の刻印や印刷表示のあるステンレス鋼製品は、一般にSUS304です。

オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合、よく問題になるのは粒界腐食で、その原因は、加熱にともなうCr炭化物の析出です。粒界腐食の事例としては、溶接したSUS304製配管における熱影響部からのガス漏れや液漏れなどがあります。一例として、図1にSUS304の溶接熱影響部における炭化物の析出状況を、図2に粒界腐食の原理を示します。

図1 SUS304の溶接熱影響部におけるCr炭化物の析出

図1 SUS304の溶接熱影響部におけるCr炭化物の析出

図2 SUS304における粒界腐食の原理

図2 SUS304における粒界腐食の原理

(2) オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)

オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(ニ相ステンレス鋼)は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べてCr/Niの比率を大きくして、常温でオーステナイトとフェライトの混合組織が得られるようにしたものです。オーステナイト系ステンレス鋼ではよく問題になる、塩素イオンによる応力腐食割れに対して優れた特性を持つため、海水や工業用水を用いるポンプなどに利用されています。

(3) フェライト系ステンレス鋼

フェライト系ステンレス鋼は、焼入れによって硬化しないもので、Cr含有量によって、低Cr系(11~14%Cr)、中Cr系(16~18%Cr)、高Cr系(25%以上Cr)に分類でき、Niは含有しません。低Cr系や中Cr系のものは、腐食性の比較的弱い環境で使用されており、とくに大気中での耐食性が良好です。そのため、建築物や厨房関係によく用いられています。

(4) マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系ステンレス鋼は、熱処理(主に焼入れ焼戻し)によって強さやじん性を付加することができるため、耐摩耗性と同時に耐食性も重要な医科用機械器具、刃物、プラスチック金型などに多用されています。13Cr鋼と18Cr鋼とがあり、後者のほうが耐食性は優れています。

(5) 析出硬化系ステンレス鋼

析出硬化系ステンレス鋼は耐食性と高強度を兼ね備えており、JISでは、ステンレス鋼棒(JIS G 4303)およびステンレス鋼板(JIS G 4305)として、SUS630(17-4PH鋼)とSUS631(17-7PH鋼)を規定しています。前者には銅(Cu)とニオブ(Nb)、後者にはアルミニウム(Al)が添加されており、析出硬化処理によって強化されます。SUS630は鍛造や鋳造されて各種機械部品に、SUS631は板材や線材として強さやばね特性を要する部品に使用されています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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