工具の通販モノタロウ 機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 金属元素の拡散浸透処理の種類と適用

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

7-5 金属元素の拡散浸透処理の種類と適用

金属元素の拡散浸透処理は、主に鋼を対象として耐食性や耐熱性の付加を目的として利用されています。別名金属セメンテーションとよばれており、アルミニウム(Al)を拡散させるカロライジング、クロム(Cr)を拡散させるクロマイジング、亜鉛(Zn)を拡散させるシェラダイジングなどがあります。

金属元素の拡散浸透処理法は表1に示すように、粉末パック法、塗布法(ペースト法)、めっき加熱法、流動層炉法および溶融塩法が行われています。処理法の中でも最もよく利用されている粉末パック法は図1に示すように、処理剤には、浸透させたい金属粉末、焼結防止剤としてアルミナ(Al2O3)、反応促進剤として塩化アンモニウム(NH4Cl)を混合した粉末が用いられています。この場合、処理温度である高温では、金属粉末は塩化アンモニウムと反応して塩化物ガスに変わりますから、実質は熱CVD処理と同様に鋼とのガス反応によって処理は進行します。

表1 金属元素の拡散浸透処理法の種類

処理法の種類 概略
粉末パック法 金属粉末+焼結防止剤(アルミナ:Al2O3)+反応促進剤(塩化アンモニウム:NH4Cl)の混合粉末中で加熱する方法。クロムの拡散浸透にクロマイジングによく利用されている。
塗布法
(ペースト法)
金属粉末と沈殿防止剤を添加したペースト(塗料)などを塗布して乾燥させ、不活性ガスや真空中で加熱する方法。
めっき加熱法 予め金属または合金をめっきした後、不活性ガスや真空中で加熱する方法。
流動層炉法 金属粉末+反応促進剤(NH4Cl)+耐火物粉末(Al2O3)の混合粉末中に不活性ガス(アルゴンガス:Ar)を吹き込み、これらを流動させながら加熱する方法。
溶融塩法 純金属またはフェロアロイの粉末を添加した塩浴(ホウ砂:Na2B4O7)中で加熱する方法。金型への炭化物被覆によく利用されている。
図1 粉末パック法の概略

図1 粉末パック法の概略

図2に各種金属を種々の方法で拡散浸透処理した鋼の断面組織を示すように、金属元素の種類には関係なく、すべての処理法において、基材とは全く異なる表面処理層が得られることが分かります。また、すべての処理層において、組織現出用エッチング液ではまったくエッチングされてないことから、耐食性の優れた皮膜であることが立証されています。

図2 金属元素の拡散浸透処理を行った鋼の断面顕微鏡組織

図2 金属元素の拡散浸透処理を行った鋼の断面顕微鏡組織

クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)など強力な炭化物形成元素が拡散浸透すると、これらは処理物に含有する炭素と反応して硬質の炭化物を形成しますから、このような拡散浸透処理は別名炭化物被覆とも呼ばれています。炭化物は超硬質であるため耐摩耗性を著しく向上させ、しかも耐熱性や耐食性も優れていますから、金型の表面硬化処理としてよく利用されています。ただし、炭化物の形成に必要な炭素(C)は処理品から供給されますから、十分な炭化物層を得るためには、炭素含有量の多い鋼種のほうが有利です

溶融塩法による炭化物被覆は、日本では1968年に豊田中央研究所で開発された無水硼砂(Na2B4O7)を用いる方法がよく利用されています。この方法は硼砂浴中で加熱するもので、この溶融塩に所定の炭化物形成元素である金属粒子または鉄との合金粒子が添加されます。この方法はTD(Toyota Diffusion)処理とも呼ばれており、主にSKD11製金型を対象にしたバナジウム炭化物(VC)被覆がよく行われています。

また、VC被覆処理温度は1000~1100℃ですから、処理にともなって比較的大きな変形・変寸を生じます。この変形・変寸を軽減する方法として、予め処理物を窒化処理した後、窒化温度程度の低温で処理する低温TD処理も開発されています。この方法は、塩化物系の塩浴を用いて500~600℃で加熱するもので、Cr炭窒化物の生成に利用されています。

金属粉末を添加した塗料による塗布法も開発されており、Alの拡散浸透処理、TiCや(Cr,Fe)7C3の炭化物被覆などが報告されています。この方法は促進剤としてのハロゲン化物は使用しませんから、真空熱処理炉や雰囲気炉を用いて同時焼入れも可能ですし、必要箇所への塗布も容易ですから、部分処理を要求される製品や部品への適用が期待されています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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