機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-1 機械部品の破損の種類

金属製品の損傷には、物理的因子によるものと化学的因子によるものがあります。物理的因子による損傷のほうが種類は多く、しかも発生した場合には致命的なものが多勢を占めます。化学的因子による損傷とは腐食のことで、短期間での致命的な損傷はありませんが、徐々に進行して最終的には破壊に至ることも多いので注意が必要です。

物理的因子とは使用中に外部から加えられる圧力や物質内に存在する内部応力のことで、主にこの因子が原因になって生じる損傷は、破損とよばれています。図1に示すように、破損には破壊、変形および摩耗の三種類があります。変形および摩耗は通常徐々に進行しますから、破壊に至る前に部品交換するなど対策を講じることが可能です。しかし、破壊は突然発生することも多く、発生情況によっては大事故に結びつくことさえあります。

図1 物理的因子による損傷の種類

図1 物理的因子による損傷の種類

(1) 破壊

破壊とは物質が二つ以上に分離してしまうことで、表1に示すように、静的破壊、衝撃破壊、疲労破壊、クリープ破壊および遅れ破壊があります。静的破壊とは、単純に増加する荷重によって破壊するもの、衝撃破壊とは、衝撃的荷重によって破壊するものです。

表1 破壊の種類と破壊現象

破壊の種類 破壊現象
静的破壊 単純に増加する荷重によって破壊する
衝撃破壊 衝撃的に負荷される荷重によって破壊する
疲労破壊 繰り返し負荷される荷重によって破壊する
クリープ破壊 一定負荷荷重において時間の経過とともに変形して破壊する
遅れ破壊 応力腐食割れ 引張残留応力が存在する場合、腐食環境化にて破壊する
水素脆化割れ めっきや酸洗の際に侵入した水素によって脆化して破壊する

疲労破壊とは、繰返し負荷される荷重によって破壊するもので、とくに機械構造用部品にはもっとも事例の多い破壊形態です。き裂の発生起点は表面または表面直下のことが多く、表面傷や切欠き、表面付近の非金属介在物の存在などは疲労強度を低下させます。

遅れ破壊とは、部品を機械装置に組み込んだときや使用初期はまったく問題がなかったものが、突然き裂を生じて破壊するもので、応力腐食割れと水素脆化割れがあります。応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)は、塑性加工や溶接などによる大きな内部応力を有するオーステナイト系ステンレス鋼や黄銅部品に生じやすいものです。

なお、SCCは材料と腐食環境および引張応力との相互作用よって生じるもので、化学的因子も必ず関与しています。例えばオーステナイト系ステンレス鋼は、塩素イオンが存在する水溶液(海水や水道水など)中で生じやすい破壊現象です。水素脆化割れは酸洗いや電気めっきを施したときの水素の内部拡散によるもので、スプリングワッシャーやばねのように常に応力が負荷されている場合に起こりやすい破壊現象です。

(2) 変形

変形とは、曲がり、座屈または伸びを生じることです。弾性破損(降伏点に達するような応力負荷によって変形する)、塑性崩壊(塑性領域の応力負荷によって変形する)またはクリープ(一定荷重によって時間の経過とともに変形する)によって引き起こされます。

曲がりや座屈は機械装置のカバーなどに用いられる薄板、支柱や梁として用いられる角状または棒状のものなどに発生しやすく、一般的な機械構造部品にはほとんど見られません。また、伸びはワイヤーなど細物に塑性領域(降伏点以上)以上の荷重が負荷された場合に生じるもので、とくに軟質材の塑性変形箇所では伸びと同時に絞り現象も起こるため、より低荷重でも進行して最終的には静的破壊にまで至ることもあります。

(3) 摩耗

摩耗は、固体または液体である相手材と接触し、その接触部での運動によって発生します。固体同士の接触部での運動には摩擦(すべり)、転動(ころがり)、打撃、振動などがあり、種々の摩耗現象を生じます。相手が液体の場合は、液体の流動によるもので、液体そのものによる場合と液体中に混在する固体粒子による摩耗があり、腐食摩耗を生じます。

1.アブレシブ摩耗:摩擦によって生じる表面の線状傷のことで、ひっかき摩耗またはスクラッチングともいいます。この線状傷の発生は、摩擦面への硬質異物の巻き込み、ばり、表面硬化層のチッピングなどによるものです。

2.凝着摩耗摩擦によって発生した摩擦面の発熱によって相手材が融着し、さらにそれが剥がされることによって生じる摩耗現象です。この融着した現象を焼付きともいいます。

3.疲労摩耗:接触面での転動や打撃によって生じるもので、表面はく離(ピッチング)や表面き裂が発生してうろこ状に剥がされる摩耗現象(フレーキング)などがあります。

4.腐食摩耗:液体が衝撃的にぶつかる箇所や流速が急変する箇所で液体中に溶存するガスの気泡が発生し、この気泡の崩壊によって摩耗する現象です。液体中に存在する硬質粒子によって生じる摩耗現象はエロージョン、電気化学的に生じる腐食をコロージョンといい、これらの相互作用による減肉摩耗のことをエロージョン・コロージョンといいます。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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