機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第8章 機械部品の損傷と調査法

8-4 破損品の原因調査手順

破損とは物理的因子によって生じる損傷で、その現象には破壊、変形および摩耗があります。その中でも破壊は二つ以上に分離してしまうことであり、最も致命的な破損現象ですから、ここでは破壊品の調査手順について説明します。

1.調査手順(その1)

製品や部品が破壊した際には、まず破面を観察しようとしますが、その前に予め破壊の原因を推測するために、図1に示すように、使用状況や破損品の仕様などを確認・把握しなければなりません。さらに、その事前調査を踏まえて、調査品の使い方と仕様を照合します。

図1 破壊品の調査手順(その1)

図1 破壊品の調査手順(その1)

使い方の調査項目としては、使用場所や使用温度など使用環境、負荷応力の大きさやかかり方などがありますが、いずれも聞き取りに頼らざるを得ませんから、不正確な場合や、不明な場合も多々あります。また、破壊時期や破壊状況も重要な情報です。可能であれば、現場の状況を直接視察するなど、できる限り正確な情報を収集することが、破壊原因を確定するうえで最も重要なことです。

仕様の確認は、聞き取りも一つの手段ですが、設計図や仕様書があればとくに問題ありません。この時点で、使い方に対して適切な仕様になっているのかを判断しますが、仕様が不適切であり、それが破壊の原因のひとつになりうる場合には仕様変更まで考慮しなければなりません。仕様の中でも、破壊に影響を及ぼす項目としては、材質、硬さ、熱処理、表面処理および形状・寸法などがあり、これらはとくに確認しておきたい情報です。

製品や部品によっては、仕様が不明または開示されていない場合もありますが、その場合には調査品について硬さ測定や元素分析などを行って、現品の特性を確認することも必要です。

調査品については、破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する前に、破面の周辺傷、打痕または摩擦痕の有無、切欠きの有無などを十分に観察し、主に使い方との整合性を確認することが重要です。また、仕様が適切であれば、損傷品の仕様との整合性を確認するために、硬さ測定、元素分析、形状・寸法測定、機械試験などを実施する場合もあります。

2.調査手順(その2)

前述の事前調査が終了したら、図2に示すように、つぎに破面を観察して破壊形態を確認します。まず初めに目視やルーペまたはマイクロスコープなどによってき裂の発生起点を確認するとともに、き裂の進展方向や進展の速度、最終破断面などを特定します。

図2 破壊品の調査手順(その2)

図2 破壊品の調査手順(その2)

マクロ破面からは、破壊の発生起点やき裂の進展状況を確認できますが、さらに詳細な情報を必要とする場合にはSEMによるミクロ破面の観察を行います。ミクロ破面の観察によって破壊形態を確認できれば、この時点で損傷原因を確定できる場合もあります。さらに、金属組織を観察することによって、材料としての問題(非金属介在物、内部欠陥など)の有無や、熱処理の状況(結晶粒度、熱処理条件など)を判別することができます。

なお、マクロ観察やミクロ観察による具体的な破面の形態に関しては。次回以降で詳細に説明しますから、ここでは省略します。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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