マシニングセンタの基礎講座
6-4 切削油剤の役割と求められる性能
機械加工は切削工具で金属(工作物)の不要な部分を切りくずとして除去しますが、切りくずには大きな変形が生じます。金属は変形すると熱を生じるため、金属が切りくずとして引きちぎられる点(切削工具と工作物が接触する点:切削点)は600~1000℃程度の高温になります。切削点で生じる熱を「切削熱」といいます。切削熱が高くなると工作物が膨張するため加工精度が悪くなり、また切削工具は軟化するため工具寿命が短くなります。さらに、切削熱が高くなると工作物に熱的ストレスが作用し、歪が生じる原因になります。つまり、金属加工では切削熱を抑制・除去することが大切で、切削点の近傍に切削油剤を供給します。
切削油剤の作用は主として(1)潤滑作用、(2)冷却作用、(3)切りくずの運搬作用の3つです。とくに潤滑作用と冷却作用は切削油剤に求められる1次性能です。
(1)潤滑作用
潤滑作用は切削油剤が切削工具と切りくずまたは工作物(仕上げ面)の間に入り込み、摩擦を低減します。潤作作用によって切削熱を抑制し、工具寿命の延長や仕上げ面性状の向上、切削動力(消費電力)の軽減がされます。また、潤滑作用には切削熱で溶解した工作物の一部が切削工具の切れ刃先端に付着する現象:溶着(凝着)を防止する作用もあります。
(2)冷却作用
冷却作用は切削熱を冷却することにより、工作物の膨張と切削工具の軟化を抑制し、加工精度の向上や工具寿命の延長に効果があります。ただし、マシニングセンタは切削工具が回転するため、工作物を削る際、チップは切削と非切削を繰り返します。つまり、急加熱(切削時)と急冷却(非切削時)を繰り返すことになるため、冷却効果の高い切削油剤を供給すると、温度の急激な変化によって熱亀裂が生じ、工具寿命が短くなることもあるので注意が必要です。
(3)切りくずの運搬作用
切りくずの運搬作用は切削点や工作物上に堆積した切りくずを取り除く働きです。切削点や工作物に切りくずが堆積すると、切削時に切りくずを噛み込んでしまい突発的にチップが欠けることがあります。切りくずは切削力と切削熱の影響により、本来の硬さよりも硬くなっているため、噛み込むとチップは欠けます。切削力と切削熱の影響で本来の硬さよりも硬くなる現象を「加工硬化」といいます。また、切りくずが工作物やテーブルに堆積すると切りくずの熱によって工作物が膨張し、テーブルも熱変位が生じため、加工精度が悪くなります。切りくずは切削点、工作物から速やかに排除し、マシニングセンタの機外へ運ぶことが大切です。
切削油剤の作用
切削油剤の供給効果
切削点での切削現象
切削油剤に求められる性能には上記のほか、浸透性、防錆効果、低劣化性、消泡性、作業性(ミストの発生や発煙、引火の危険性がないこと)、安全性(消防法に)などがあります。これらは2次性能といわれます。また、価格、環境、安全性は3次性能といわえます。
切削油剤を選定する際には、1次~3次性能までを総括的に考慮して選択することになります。
切削油剤に求められる性能(1次性能~3次性能)
- 潤滑作用
- 冷却作用
- 切りくずの運搬作用
など
- 耐腐敗性
- 防錆性
- 消泡性
など
- 価格
- 環境性
- 安全性
など
切削油剤の性能評価は多種多様。
『マシニングセンタの基礎講座』の目次
第1章 マシニングセンタの基礎知識
-
1-1マシニングセンタとは?私たちの身の回りには色々な「もの(モノ)」が溢れています。
-
1-2NCフライス盤とマシニングセンタの違いボール盤や旋盤、フライス盤、研削盤などは人の手でハンドルを回し、操作する工作機械です。
-
1-3マシニングセンタの基本的な構造私たちの人間は体幹を鍛えることによって運動能力を高めることができます。
-
1-4マシニングセンタの構造と種類マシニングセンタは主軸の向きや構造、駆動する軸の数によって、(1)立て形、(2)横形、(3)門形、(4)5軸の4つに大別されます。
-
1-5直線軸とは?(右手の法則その1)マシニングセンタは切削工具(主軸)や工作物の位置を座標値(NCプログラム)で指令して操作するため、マシニングセンタを操作する場合には座標値の軸となる座標系について知っておかなければいけません。
-
1-6回転軸とは?(右手の法則その2)マシニングセンタはX軸、Y軸、Z軸の直線3軸によって工作物の面に対して直角や平行な加工(たとえば平面加工、溝加工、穴あけ加工など)を行うことはができますが、斜めや曲面の加工を行うことはできません。
第2章 マシニングセンタの装備
-
2-1自動化の仕組み:ATC(オートマチック ツール チェンジャ、自動工具交換装置)ATCはAutomatic Tool Changerの頭文字を取った略称で、自動工具交換装置のことです。
-
2-2自動化の仕組み:APC(オートマチック パレットチェンジャ、自動パレット交換装置)APCはAutomatic pallet Changerの頭文字を取った略称で、自動パレット交換装置のことです。
-
2-3切りくず回収の仕組み:チップコンベア機械加工は工作物の不要な箇所を削り取り、目的の形状をつくる加工法です。削り取った箇所は切りくずとなって排出されるため、視点を変えると、機械加工は切りくずをつくっているといっても過言ではありません。
-
2-4回転テーブルのしくみ回転テーブルは電子レンジや中華料理のテーブルのように円形で1軸の回転機能を持つテーブルです
-
2-5ツーリングとは?ツーリングは主軸と切削工具を繋ぐインタフェイスですから、マシニングセンタの主軸との締結剛性、切削工具との締結剛性の両方が大切です。
-
2-6ツーリング(シャンクの種類:BT、BBT、HSK、CAPTO)正面フライスやエンドミル、ドリルなど切削工具は工作機械(マシニングセンタ)の主軸に直接取り付けることはできず、ツーリングを介して主軸に取り付け付けます。
-
2-7ツーリング(ホルダの種類)ツーリングは主軸と切削工具を繋ぐインタフェイスですから、マシニングセンタの主軸との締結剛性、切削工具との締結剛性の両方が大切です。
第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア
-
3-1NCプログラム(インクレメンタルとアブソリュート)マシニングセンタを動かすためのプログラムをNCプログラムといいます
-
3-2NCプログラム(機械原点とワーク原点)マシニングセンタを自動で動かすためにはNCプログラムを作成する必要があります
-
3-3工具長補正と工具径補正マシニングセンタは自動工具交換機能(ATC)を備え、正面フライスやエンドミル、ドリル、タップなど加工目的に応じた色々な切削工具を使い分けながら加工を進めます。
-
3-4NCプログラムの構成図にNCプログラムの例を示します。NCプログラムの先頭と最後には「%」を入力します。
-
3-5NCプログラムの各種機能マシニングセンタなどNC工作機械を動かすためのプログラムを「NCプログラム」といいます。
第4章 マシニングセンタの要素技術
-
4-1主軸の駆動方式マシニングセンタは切削工具(刃物)を取り付けた主軸を高速に回転させることによって工作物を削ります.
-
4-2主軸の軸受マシニングセンタの主軸の性能は主軸を支える軸受が大きく影響します
-
4-3直線運動の駆動方式マシニングセンタのテーブル,サドル,コラム,主軸頭の運動部の駆動方式は主として,(1)ACサーボモータとボールねじの組み合わせと,(2)リニアモータの2種類に大別されます.
-
4-4案内方式の種類(すべり案内,転がり案内,静圧案内)マシニングセンタのテーブル,サドル,コラム,主軸頭などの運動部の案内方式は主として?すべり案内,?転がり案内,?静圧案内の3種類があります.
-
4-5構造の空間精度を向上させる「きさげ加工」マシニングセンタの本体構造であるベッド(土台)とコラム(支柱)は多くの場合,ねじ(ボルト)で締結されて固定されています.
第5章 マシニングセンタの特性と関連知識
-
5-1主軸の性能(基底回転数)マシニングセンタのカタログや取扱説明書を見ると色々な細目について記載されています.
-
5-2運動軸の制御方式近年のマシニングセンタは0.001mmや0.0001mmの単位まで座標値を指令することができますが,指令した座標値と実際の座標値がホントに一致しているのか疑問に思ったことはないでしょうか?
-
5-3象限突起とスティックスリップマシニングセンタで円を加工すると,象限が変わる際にボコッと小さな突起が発生することがあります.
-
5-4加速度と加加速度主軸頭やテーブルなど運動体の切削送り速度が速いほど加工時間が短くなるため生産性が向上します.切削送り速度の最高速度はマシニングセンタに求められる重要な性能で,切削送り速度が速いほど「俊敏性が良い」と表現されます.
-
5-5母性原理マシニングセンタは高速に回転する切削工具で,工作物の不要な部分を除去し,所望の形状を創製する工作機械です.
-
5-6地耐力家を建てるとき,地面にコンクリートの基礎をつくります.基礎は家の重みを均一に分散さえることによって,地面が沈下し,家が傾かないようにするための働きをします.
第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識
-
6-1暖機運転私たちは運動する前,準備運動を行い,血液の循環を良くし,身体を温めます(ほぐします).一方,準備運動を行わず急に身体を動かすと,本来の運動能力を発揮できないばかりか,怪我の原因にもなります.
-
6-2荒加工,中仕上げ加工,仕上げ加工機械加工(工作機械を使った加工)は図面に指示された範囲内に寸法精度(寸法許容差),表面粗さ,幾何精度(平面度,直角度,平行度,同心度など)を仕上げなければいけません.量産加工では加工精度の安定性(バラツキが小さいこと)も必要です.
-
6-3潤滑油の種類と性能マシニングセンタは電源を入れると,ボールねじや各部(テーブル,サドル,コラム,主軸頭)の摺動面(すべり面)に自動で潤滑油が供給される仕組みになっています.
-
6-4切削油剤の役割と求められる性能機械加工は切削工具で金属(工作物)の不要な部分を切りくずとして除去しますが,切りくずには大きな変形が生じます.
-
6-5切削油剤の種類その1(不水溶性切削油剤)切削油剤の種類は原液のまま使用する「不水溶性切削油剤」と,水に希釈して使用する「水溶性切削油剤」の2つに大別されます.
-
6-6切削油剤の種類その2(水溶性切削油剤)水溶性切削油剤は水に希釈して使用するため冷却性に優れ,発火の危険性がなく,無人・自動運転に適しています.
-
6-7水溶性切削油剤の管理夏の暑い時期になると生産現場に切削油剤特有の匂いが漂うことがあります.この匂いは水溶性切削油剤に含まれる添加剤が微生物(バクテリア)の栄養源になり,水溶性切削油剤が劣化・腐敗することによって生じます.