切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第4章 フライス加工用の切削工具

4-2 正面フライスについて

フライス盤やマシニングセンタで広い平面を削りたいときに使用する切削工具を「正面フライスまたはフェイスミル(Face mill)といいます。 生産現場では正面フライスを「フルバック」と呼称されることがありますが、これは以前日本の切削工具メーカが正面フライスを「フルバック」という商品名で発売し、広く普及したことが起源です。

正面フライスは広い平面を効率よく削るため外径が大きく、円周上に多数の刃(チップ)を等間隔に付けた構造をしています。 たとえば円周上に6枚のチップを取り付けた正面フライスでは、1刃が材料を削る量を1とした場合、1回転で削れる量は6になります。つまり、外径が大きいほど、また刃数が増えるほど加工能率が高くなることになります。 ただし、外径が大きくなると、重量が重くなるため、使用する工作機械(フライス盤やマシニングセンタ)のパワーも大きいものが必要になります。

小さな工作機械に大きな正面フライスを取り付けるのは「ムリ」で、大きな工作機械に小さな正面フライスを取り付けるのは「ムダ」です。「ムリとムダ」を考え、工作機械に適合した大きさの切削工具を選択することが大切です。

また、刃数が増えると、刃と刃の間隔が小さくなるため、切削時に発生する切りくずが円滑に排出されず、詰まり気味になり良好な切削が継続できません。刃と刃の間隔を「チップポケット」といい、チップ(chip)は切りくず、ポケット(poket)は物入れの意味です。

正面フライスは見る角度によって2つの「すくい角」があり、正面フライスを横から見たときのチップの挿入角を「アキシャルレーキ」、正面フライスを裏から見たときのチップの挿入角を「ラジアルレーキ」といいます。 両角度は切れ味と切りくずの流出方向に影響する角度で、角度が大きいほど刃の強度は弱くなりますが、切れ味はよくなります。このため、アルミニウム合金や銅合金など比較的軟らかい材料を削るときには、アキシャルレーキとラジアルレーキの両方が大きいものを選択するとよいでしょう。

刃が材料を切り取る角度を「アプローチ角(またはコーナ角)」、アプローチ角の余角を「切込み角」といいます。アプローチ角(または切込み角)は切削抵抗の向きに影響する角度です。 アプローチ角が大きい(切込み角が小さい)正面フライスは切削抵抗が主軸方向に作用するため、主軸の剛性が弱く、主軸が傾きやすい(軸方向と直角方向の力に弱い)小さな工作機械のときには、アプローチ角が大きい正面フライスを選択するのがよいでしょう。

正面フライスは広い平面を加工する切削工具

正面フライスは広い平面を加工する切削工具

正面フライスの刃数

正面フライスの刃数

刃(歯)の間隔が狭いと切りくずが詰まりやすい

刃(歯)の間隔が狭いと切りくずが詰まりやすい

見る角度によって異なる2つのすくい角

見る角度によって異なる2つのすくい角

切込み角によって切削抵抗の向きが変わる

切込み角によって切削抵抗の向きが変わる

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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